彼の日の残像
8月15日。


「 ごめん。ごめん……ごめん夜鷹 」


彼はいつも泣きながら、謝っていた。徐々に息苦しくなってきて、視界が虚ろになっていく。
綺麗な漆黒の髪が、黄色の瞳が。私(カノジョ)が好きだった(好きな)彼が涙を流す。本人は気が付いているのだろうか?


――謝らないで。
―――お願いだから泣かないで。
――――ワタシはあなたに会えて幸せだったよ。


伝えたい気持ちがあるのに。言葉にして届けたい想いがあるのに。どうしてあなたに伝えられないのだろう。
暗くなる視界。無音の世界がやってくる。何度目かのさよならが訪れた。

そして次に目覚める時が来たら、それはきっと別世界の暑い、暑い、あの夏の日なのだろう。

窓辺に腰掛けて涼しいクーラーの利いた部屋で、ぼんやりと分厚い入道雲とスカイブルーを見つめていたらドアが静かに開いて。


「夜鷹」
『……コノハ』


白髪の黄緑色の青年が私を見つけて静かに微笑む。大きな歩幅で私の傍まで来ると両手を広げて立ち止まる。


「いいよ」


そう言って頬に伝う私の一筋の涙に、彼が小首を傾げて「 おいで 」と言わんばかりに両手を広げているから。鼻水をすすって窓辺から離れて彼の腕の中に飛び込んだ。


「泣かないで……夜鷹。僕が傍に居るよ。ずっと……」


背中に周る腕が強く私を包むから、彼の服を雨に濡らす様に斑点模様が作られていく。
恐怖、愁哀、淋しさと、悲しさと、それから……愛しい気持ちが混ざり合ってぐちゃぐちゃになって。

それでも彼を憎めない。恨めない。
これはカノジョの涙なのだ。感情なのだ。溢れ出る感情が私に流れこんでくるから、私が涙を溢すのだ。

これはどんな感情なのだろう。
どうしてこんなにもこの感情のことを知りたいと思うのだろう。
うそつき。そうだ、この感情は私の感情だ。カノジョの所為にするなんて馬鹿がすることだ。馬鹿。

『コノハ…ッ』

辛い。苦しい。痛い、痛いと心が叫ぶ。
荒れ狂う嵐のような感情が押し寄せてきて、子供のように泣きじゃくる。
痛いよ、痛いよ。お母さんって。


「痛みを半分こに出来たらいいのに……」


涙を少し浮かべてコノハは隙間さえも埋めるように強く抱きしめてくれる。
この温もりがきっとカノジョが彼に対する気持ちなのかもしれない。
ぼんやりと頭の中に浮かんではしぼんでいった。

独りにしないで。

置いて行かないで。

―――――――――――殺して(殺さないで)………!!


20160403(加筆修正)
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