※もしも遥の意識が一時的にコノハに宿ったら…
※精神が病んでしまったら…
僕はあの夏の日。
笑顔の似合う真っ白な女の子に恋をした。
「 夜鷹 」
頭の中でエラー音が鳴り響くみたいに、無防備な彼女を押し倒していた。
『コノハ?』
彼女から発せられる音は、決して僕じゃない。僕が創りだした理想の存在である【コノハ】それは僕であって僕じゃない。僕とは意思さえも異なる異端な存在。
「夜鷹…やっと会えた」
彼女の頬に触れる。あの頃よりもずっとずっと近くに入れている気がした。でもこの距離感は僕が築いたモノじゃない。これは…コノハが抱いた感情。コノハが自ら創りだした彼女との距離。
{ かわいい夜鷹。毎日眠れない夜を過ごしては涙に暮れる日々。壊れてしまいそうなほど脆くて弱い夜鷹を護ってあげたい。何もない僕だけど。君を大切にしたい }
ああ、なんていうんだろう。この感情に名前はあるのかな?
床に広がる彼女の白藤色の髪が蜘蛛の糸のように見える。捕まった蝶を愛でながら食べる気分はどんな気持ちなんだろう?自分に対する好意を彼女はどんな風に噛み砕くのだろう。その肌に触れさせて、その口で愛をさえずり、その瞳で男を惑わす。
ああ、そうだね。きっとカノジョが教えてくれたとおりだ。目の前に居るのは空っぽの存在。必死に虚空を埋めようともがいてあがいて、苦しんで、ようやく形成されてきた未完成の夜鷹だ―――。
「忘れちゃったの?僕のこと。僕の色を毎日身に着けておいて、消したの?酷いよ夜鷹。最初に君の傍にいることを約束したのは、僕(遥)なのに――」
『!は、るか……』
目をみはるように彼女はその愛らしくも大きな瞳を揺らした。だんだんと色づいていく赤。赤、赤……赤い目で僕を見つめる。
カノジョが邪魔をする。夜鷹の意思を無視してカノジョが顔出す。その一瞬の出来事。彼女の目を手で隠し潤ったその唇を塞いだ。
『んん゛ッ―――――!!』
抗議の音が聞こえる。塞がれているのに喋るから空気は簡単に抜けていく。苦しくなって涙を浮かべて夜鷹は夜鷹になる。邪魔はしないでほしい。カノジョはなりを潜める。映らなければ、その赤い目に映らなければ誰にも止める事は出来ない。
真っ白な夜鷹。白藤色の髪が段々と黒く、染まっていく。夜空の色。
床に縫い付けた両手が暴れる。彼女の脚の間に膝を立てれば足は行動を制限される。
観念したように夜鷹は口をあける。酸素を供給しようと開けたその口を待っていたように僕は、舌を差し入れた。温かくて柔らかな口内。綺麗な歯列をなぞりながら唾液を飲むと、何だか気分がさらに高揚してきた。媚薬のように甘い甘い、彼女に胸が躍る。
名残惜しげに離れれば唾液の糸がひいていた。舌で舐めとり肩で息をする酸欠状態の夜鷹の服に手をかけた。鎖骨に口付けを送れば夜鷹は首を振った。
『やめっ、はるかッ……!』
「嫌だ。どうして…どうしてコノハはよくて僕は駄目なの?」
『!ち、違うっ。そうじゃなくて――』
「一体どんな意味があるの?拒否をするってことはどういう意味なの?ねえ、夜鷹。コノハは僕が創りだした。コノハが君に抱く感情の全ては僕が君に抱いた感情なんだよ、知っていた?」
はだけた服からのぞく彼女素肌に指を馳せれば反応を示す彼女の苦悶の表情が伺えた。
「僕が最初に君を想っていたのに。僅かに残った感情から彼も君に想いを募らせた。でも夜鷹を最初に見つけたのは僕だ――絶対に誰にも渡したくない」
その肌に跡を残すように限られた時間の中で、彼女に想いを伝えた。涙に濡れる彼女の顔がよく見えない。何もかも奪うように、触れて、感じて、溶けていく。
聴いた事もない彼女の嬌声に胸が甘く痺れる。
「夜鷹……」
どうしてだろう。繋がっているのに、誰よりも近い存在になったのに。胸が苦しい……痛い。でも、どうしようもないくらい愛おしい。嬉しい。
感情があべこべになって浮かんでは沈んでいく。考えるのも放棄して、彼女の身体をかき抱いた。奥の奥まで深く君との繋がりが欲しかった。誰にも渡したくなかった。孤独の中で思っていたんだずっとずっと、ずっと……伝えればよかった。
僕の想像を超える欲が彼女のナカで破裂した。ポタリポタリと落ちていく斑点模様。
彼女の髪を撫でながら僕は零れる雫を拭った。
「ざまあみろ」
こんな言葉、知らなかったよ。
それから再び僕は闇の中、たったひとりで戻ってきた。
部屋の隅で夜空みたいな色の夜鷹が哀しそうに眉をひそめた。
まるで僕を哀れんでいるみたいで。その視線から目を背けて、いつもみたいに瞳を閉じた。伝わってくる彼の感情。
「 夜鷹…どうして僕を避けるの……? 」
淋しそうな声が聞こえた気がした。
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