1カラットのダイヤモンド程度の嘘
※原作小説ネタばらし含む


文化祭を1週間と控えている週。僕は楯山先生の家に来ていた。娘さんが出迎えてくれると言っていたけど、散々な目にあった。2階に上がって不思議な書庫をみつけて中に入ったら閉じ込められるし、何とか開けてもらったけどその子は寝起き姿だし。先生の娘さんって何人いるの?あと息子さん。ちゃんとした部屋に通されてアヤノちゃんと対面する。


「ごめんなさい。本当はお姉ちゃんが出迎える予定だったんですけど、自由な人なので……ちょっとお姉ちゃん!」


携帯に向かってアヤノちゃんは少しだけ怒った口調で相手に文句を言っていると、電話口先の方から「 ごめんごめん〜 」とのらりくらりと能天気な声が聴こえて来た。あれ?何か聞いたことあるような声だな。どこだっけ?何だかとっても聞き覚えのある声なんだけどな……。


「もう!今朝になって突然友達の家に泊まるとか意味わかんないよ!いいから早く帰って来て!クラスメイトなんでしょ?」
「え?クラスメイト?」
「はい、姉は……って電話切られた!」


ズモモモっとアヤノちゃんの後ろには「怒ってますよ」というオーラが出ていた。うん、怖い。この怒り方少し夜鷹に似てるな。既視感を覚えながらアヤノちゃんは何度も「すみません」と謝り続けた。


「いいよ、気にしないで。所でお姉さんって名前何て言うの?」
「はい。姉は夜鷹です」
「………えぇっ!!!夜鷹なの!???」
「はい……あの、もしかしてお姉ちゃん何にも言ってなかったんですか?」
「あ、うん……でも御家瀬って苗字だから気がつかなかったけど」
「……お姉ちゃんは養子組で。でも、あの!私の自慢のお姉ちゃんです!お姉ちゃんの高校に私も入りたいって思っていて……学校ではどんな様子なんですか?お姉ちゃん何にも教えてくれなくて」


随分と夜鷹の事を慕っている様子がうかがえる。そっか。家では夜鷹、お姉さんしてるんだな。でも面倒見いいところあるから何となく予想が出来た。


「ああ、夜鷹って自分の事話すようなタイプじゃないもんね」
「そうなんです!そのくせ私の事は何でも知ってるので不公平です。私だってお姉ちゃんのこと知りたいのに……」
「はははっ。そうだな夜鷹は、美人で有名かな?」
「ああ!お姉ちゃん昔から綺麗で。男の人から手紙とか貰ってましたね。でもその手紙はお父さんと弟達の手で燃やされて……お姉ちゃんの目には入らなかったですね、そういえば」


……おぉ。何だろう。溺愛?なのかな。先生が夜鷹に向けられた手紙を燃やす。何か有り得そうだ。もしかして僕も何か対策をたてられているのかな?おっと何だか不安になってきた。怖い怖い。


「そういえば今も貰ってますね」
「え」
「この前部屋に入ったら机の上に5通くらいあって。お姉ちゃんに聞いたら『聞いたらなんだって?』……あははは、おかえりお姉ちゃん」


アヤノちゃんの後ろには夜鷹がいつの間にか立っていて。アヤノちゃんの頭に拳骨が入るのを黙って見ていた。ああいうときも笑顔なんだって思ったら、声が出ませんでした。


「もうっ。お姉ちゃんがそもそも居なくなるのが悪いんじゃない」
『勝手に人の部屋入る方が悪い。道理で私が手紙貰ってたこと知ってたのね』
「だって……。で?あの中の人の誰にするの?」
『へ?』
「言ってたじゃない。あの中の誰かにするって……で?だれだれ?お姉ちゃんの彼氏になる人!」
『あーもう!いいからご飯でも作ってこい!』


アヤノちゃんを無理矢理部屋から追い出すと夜鷹は汗を拭っていた。僕は何だか置いてかれている気がするけど。引っかかっていることが頭をしめていた。手紙を貰っている?夜鷹が?でもそんなの見た事無い。いつ貰ったの?しかも夜鷹の好きな人って“遼”くんじゃないの?その手紙の中の誰かと付き合うの?どうして――。
夜鷹と目が合うと少し気まずそうに目を逸らされてしまった。


「ぁ――」
『アヤノの様子見て来る!遥くんはここでのんびりしてて』


そして夜鷹も部屋から出て行ってしまった。何にも聞けなかった。引き留める事も出来なかった。何故なら僕が彼女になんて言葉をかければいいのかわからなかったんだ。こんな僕が……一体なんていうんだ。付き合わないでって?言えるわけない。これは夜鷹の人生なんだ。邪魔出来るわけない。


「あの遥くん?」
「うわあぁぁああ!!!」


いつの間に戻って来たのか夜鷹が目の前に立っていた。凄く自分の中でシリアスなムードになっていたので恥ずかしいやら、驚いたやらで心臓がドンドンっとノックする勢いだった。大丈夫。これは発作じゃないから。


「ごめん…大声だして。アヤノちゃんの様子見に行ったんじゃないの?」
「そうなんだけど。ちょっと確認したくて」


そう言うと夜鷹は僕の目の前に1通の手紙を突きだした。思わずそれを受け取ると差出人の名前が書いていなかった。もしかしてこれ…夜鷹に宛てたラブレターなんじゃ……。


「コレ書いたの遥くん?」
「……はい?」
「違うんだ」
「あ、えっと、そっそうだよ!僕だよ」


あれ?何で勢いで嘘なんて言っちゃったんだろう?自分の突然の行動に訳がわからずに。それでもそれを覆そうとは思わなかった。だってこれが5通のうちの一つなら僕も候補に上がることになるから……あ、いや。上がってどうするんだ?候補に。僕はそういう意味で夜鷹の事を想っているのかな?でも放っておけない気持ちが強いのは確かだった。


「ふーん。そうなんだ……やっぱり」
「え、やっぱりって……」
「ううん。コレだけ差出人不明だったから気になって。遥くんじゃないって思ってたんだけど」
「え、何で僕じゃないって思ったの?」
「だって遥くんって―――貴音が好きなんでしょ?」


そう言われてドキって心臓が鳴った。思わず何も言えずに夜鷹を見つめると「ほらね」って言うかのように笑っている。


「でも私に出したから……遥くんって浮気性なんだね。最低」


……笑顔で言われると心が抉られるような気分だった。いや、僕は決して浮気性では……あ、いやどうなんだろう?確かに貴音のことは友達って言うかその枠の中には該当しない事は絶対だ。でも夜鷹の事も気になるのは確かだ。これって浮気性なのかな?当てはまるのかな?……段々、自分が最低に思えてきた。


「私の事でもう口挟まないでね。遥くん以外の人と付き合うって決めてるから」
「あ、え」
「守ってもらわなくても、もういいから。だって遥くんと私じゃ不釣り合いだもん。今まで通り友達で。よろしくね」


それだけ言って夜鷹はいつも通りの笑顔で手を振って去って行った。何だか言いたいことだけ言って帰ってしまった様な感じだな。でも、夜鷹って本当に僕の心をかき乱すよね……ああ、もう。僕って一体何がしたいんだろう。本当に浮気性かもしれない。うぅ……夜鷹。貴音……助けて。
ごろごろってしているとアヤノちゃんと夜鷹が部屋に入って来て中華丼を僕の前に披露してくれる。


『ごめんね、遥くん。材料なくて今まで買いに行ってた』
「すみません。遅くなってしまって。これお姉ちゃんのお手製なんで安心して下さい」
『何をよ……って遥くん?どうしたの?』
「あ、えっと……今まで買い物に行ってたんだよね?」
「そうですけど……」
『もしかして……』


二人は顔を見合わせると部屋を飛び出して階段をバタバタと降りると再び少年の悲鳴が響き渡った。ついでに夜鷹の地を這う様な声まで聴こえて来て、僕は自分が怒られていないのに思わず正座をしてしまった。


「ごめんなさい。弟がまた……」
「ううん。あの夜鷹は……」
「今、説教中です。お姉ちゃんが一番怖いんですよね」
「うん。その気持ちはよくわかる」


まだ正座は解けなかった。アヤノちゃんはクスクスと笑っていて二人で内緒話をするみたいに笑い合った。弟君の悪戯って事はアヤノちゃん最初に怒っていた“しゅうや”くんの仕業なのかな?でもどうやって?変装?それにしても完璧だった。夜鷹にしか見えなかった。あの笑顔とか仕草とか……気になるけど聞ける雰囲気じゃないことは明白だった。


『遥くん。ごめん。忘れてね、あの子が言った事』


何か引きつった顔の夜鷹が現れて思わず喉をつまらせた。


『大丈夫?ああ、それと父さんが用意してある機械の設置は私も付き合うから』
「……なんか。夜鷹の口から先生を父さんって呼ぶの聞くと、違和感があるね」
『悪かったな。仕方ないでしょ……バレる訳にはいかなかったの』
「それってどういう……」

{ なーに迫ってんのよ遥 }

「うわぁぁあああっ!!!貴音の声が聴こえる!?」
『フハハハ!抜かりないからね』


何の!?いや、何の抜かりがないの!?ってツッコんでも夜鷹も貴音も笑ってばかりでこれじゃあ教室にいるときと変わらない。

何か……僕はこのままの方がいいのかもしれない。

拍子抜けして僕も一緒になって笑っていた。

top

ALICE+