巣立つ言ノ羽
生意気な小僧とアヤノちゃんも加わった昼は更なる賑やかしさを誇っていた。今はじゃんけんで負けた夜鷹と遥が飲み物を買いに行って不在である。よってこの場にいるのはアヤノちゃんと私と……この目つきの悪い男のシンタローである。


「夜鷹の妹だったんだね」
「はい。でも血は繋がってませんが……自慢のお姉ちゃんです」
「そっか……アレが自慢か」
「あ、あの…すみません。姉がいつも」
「いやいや!寧ろ迷惑かけているのは私の方かも……」


主に勉強面とか。テスト期間中は遥に土下座するくらいなら夜鷹にした方がマシだと考えてその門を叩いたら酷い目にあった。教科書丸めて公式覚えるまで叩かれたな。頭部。私の頭部はどうやら鋼で出ているらしい。


「お姉ちゃん容赦ないですから」


アヤノちゃんも同じ目に合ったのか。二人して後頭部を撫でていた。


「同情するわ」


シンタローの呟きに二人で振り返るが、ぐぅの音も出なかった。確かに夜鷹はスパルタだが、徹夜で付き合ってくれたし。平均点まで点数も上げてくれた。いい先生と言えばいい先生である。だが腹立つから頭を叩いておいた。


「暴力女ッ」
「なんだって?糞ガキ」
「お、落ち着いてください!ああ、そうだっ!お姉ちゃんたち遅いですね。私、手紙を預かっているのに」


アヤノちゃんが仲裁役に回り、話を逸らそうと話題を振る。その話題が手紙だったので私もシンタローも手と口を止めて振り返った。アヤノちゃんの手には真っ白な封筒が達筆な字で「御家瀬夜鷹様」と記載されている。一瞬、どこの文豪だよって思ったけど。その真っ白な封筒からは並々ならぬ恋の予感というものが漂っていた。


「その手紙って夜鷹宛てだよね?もしかしてラブレターとか?」
「あ、そうなんですかね?やっぱり」
「それクラスの奴からだったよな?」
「うん。田中くんからだよ」
「平凡な苗字だね」
「顔も覚えてねえから平凡なんだろうな」
「あの二人とも口が過ぎてますよ」


正直こういった浮ついた話は好きじゃない。好きじゃないけど夜鷹ってなると思わず心臓がドキって騒がしくなる。ああ、なんでこう遥のことを思い浮かべちゃうのかな、私は……。絶対遥がこの事知ったら傷つくの考えなくてもわかるよ。はあって長いため息をついた。


「だいたいお前は何でそんなもん受けとっちまうんだよ。渡される方だって迷惑だ」
「だってー無下に出来ないでしょ?一生懸命気持ちをつづってるんだから。それにシンタローが迷惑ってどういう意味よ」
「あ、そ、それはっ!言葉の文っていうか、なんつーか…お、俺のことはいいんだよ!それよりその手紙、本当に夜鷹先輩に渡すのかよ」
「そりゃお姉ちゃん宛てだもん。渡すに決まってるよ」
「あんたって何?夜鷹が好きなの?」
「ブフゥゥゥゥゥゥゥ!!!?」


食べていたパンを吐き出す勢いで喉につまらせていた。なんだ、こいつ……可愛いところあるじゃないか。ニヤって口元を開けてシンタローに標的を合わせた。口元を袖で拭いながら背中をアヤノちゃんが撫でている。アヤノちゃんも何だか面白そうだと思ったのか若干半笑いな顔をしていた。我慢するなら笑ってあげなよ。


「中学の頃からシンタローってお姉ちゃんに憧れ抱いてたよね」
「はあ?!んなわけねぇだろ!」
「高校もお姉ちゃんが居るから選んだんでしょ?」
「お、お前だっていくつになっても"お姉ちゃんと一緒がいい"とかで追いかけている癖によ!」
「べ、別にいいでしょ!?私は純粋にお姉ちゃんに憧れてるだけなんだから…シンタローと違うもん」
「え、夜鷹って中学からあんなんなの?」
「えっと。そうですね?お姉ちゃん昔から勉強も運動も卒なくこなしちゃうんで。それに見た目が綺麗なだけあって憧れのお姉さまって呼ばれてるくらいでしたし」
「中学生には見えない大人な雰囲気が男子の憧れでもあっただけだって。アンタにはわかんないだろうけど」


こちらを見て鼻で笑うこの小僧の首を腕で固定して締め上げていた。


「あ"んだって?」
「このっ、ぼうりょく、おんなっ!」


そっか。昔から……神様ってやつは何て不公平なんだ。天からの産物与えすぎでしょ。私だって夜鷹みたいに綺麗だったら遥に気持ちを打ち明けて……出来る訳ない。有りえないムリムリ。手を左右に振ってがっくりとうなだれていた。


「神様って不平等だ!私には何もないし!」
「何言ってるんですか!貴音さんはゲーム得意じゃないですか。誰にだって真似は出来ませんよ」
「アヤノちゃん。ありがとう」
「それに引き換え私の方がなにも…ははは」
「いやアヤノちゃんだってこんな面倒くさい私とかこいつの面倒見れる視野の広さと心の広さは関心するよ!それだって誰にだって出来ることじゃないじゃん!」
「貴音さん…!ありがとうございます」


女子同士で慰めあっていると解放してやったシンタローが咳き込んでいる。


「はあ?ったく僻んでんじゃねぇよ。夜鷹さんだって勉強苦手で努力して今の地位を手に入れたんだっての」
「…え?嘘でしょ?だって夜鷹一言もそんなこと言って…」


思わずアヤノちゃんを見るとアヤノちゃんも驚いた顔をしていた。一緒に暮らしているのに気がついてなかったんだね。


「自分は余所者だから勉強くらいは出来ないとってんで…よく放課後は図書室で勉強してたよ」
「あんた、詳しいね」
「そりゃ俺も図書室に居たから…ってか本人に聞いたことあるだけだよ」
「そういえばお姉ちゃん家で勉強してるところみたことない…そっか。お姉ちゃんも努力してたんだね。私…酷いことばかり言っちゃった」


そういうとアヤノちゃんは反省するみたいにしょんぼりしだした。友だちである私にはきっと見せた事もないアヤノちゃんの妹の姿がきっと目の前のアヤノちゃんなんだろうなって思いながら私も、知らないで酷い事ばかり言っていた事思い出す。何にも言わないからいいように、好き勝手に言ってしまっていた自分も反省ものだ。


「そんなこと一々気にするような人じゃないだろ。あの人は」


いつになくシンタローが空気読んで慰めてくれたことが、何か薄気味悪く思った。もしかすると夜鷹は今まで誰にも本音を打ち明けた事ないんじゃないのかな?なんて淋しい気持ちのまま早く戻ってこないか待ちぼうけをする。私もいい加減腹くくれば夜鷹は私に本音で話してくれたのかな?


『貴音!お待たせ』


元気に手を振って満面な笑みを浮かべる夜鷹に、私は少しだけ真剣な顔をして。


「私、夜鷹の事好きかも」
「……えっ貴音!??」


何故か遥が動揺していて、私の隣に座った夜鷹は少し照れくさそうに。


『私も貴音のこと好きかも』


って引用して返してきたから「じゃあ私たち両想いだね」『結婚しちゃう?』「卒業したら挙式をあげよう」とか言って盛り上げって話を進めると遥が「ええぇ!?ちょ、待って!」なんて慌ててるから二人して「「 何信じてんのよ 」」とか言って笑った。

遥のこと、もう少しだけ待っててくれると助かる。まだこんな風に言えないけどいつかちゃんと伝えるから、そしたら夜鷹もちゃんと伝えてよね。


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