「えっ!?夜鷹に好きな人が居たの!?しかも遥じゃなくて遼なの!?紛らわしぃ!」
貴音は知らなかったらしく激しい問い詰めというか驚きが勝りながらの尋問が隣の席で行われていた。
「思い出したんだ。へえーフルネームは?」
『九代遼。同い年だよ』
「へえーでも同名なんて珍しい事もあるもんなのね」
『確かに。そこには驚きを隠せない』
「子供の頃に出会ったきりの好きな人か…あんたにもロマンチックな思考回路なんてものが存在してたんだ」
『貴音氏。そういう事を言うと宿題のコピーを見せてやらぬぞ』
「すみませんでしたっ!女神よ、どうか慈悲を!!」
貴音の机の上に置いてある紙を引き抜きペラペラと揺らせば貴音は面白いように土下座していた。いつものやり取りすぎて僕は何も言わずにスケッチブックに線を描き足す。
「じゃあ今でも好きとか?」
『あー……うん』
「…歯切れ悪いね。なになに?今は別の人が好きとか?同名の人が好きとか?」
ニタって顔して貴音が生き生きしだす。本当に人の弱みとか握りだすと貴音は楽しそうだ。そんな貴音を横目に夜鷹は少しだけ恥ずかしそうに眉を寄せて足をぷらっと宙へけりだした。
『違うんですけど。勝手にくっつけようとしないでよね』
「ええー素直じゃないね〜。顔は?写真は?持ってないの?」
『写真は持ってないけど顔は思い出したから…って絵心ないし』
「あれは芸術品だよ。まあ私もないけど」
すると二人の視線は僕へと向けられる。ああ、なんか嫌な予感がする。っと視線を合わせないように背けると夜鷹と貴音が顔を覗き込むように僕を囲った。こういうときの団結力ってどうやったら成り立つのかな?って疑問に思いながらも僕はやっぱりしぶしぶと目を合わせた。
「遥、書いてよ。絵上手いし」
「あ、えっと。はい……どんな特徴だっけ?確か黒髪で…」
昔夜鷹に聴いた事のある遼くんの容姿の特徴を呟きながらスケッチブックをパラパラとめくって白い無地を探す。その最中、夜鷹は『ストップ!』といきなり大きな声を出して僕のスケッチブックを指差した。思わず貴音も僕も驚いて手を止めた。『ちょっと借りるね』とお構いなしにスケッチブックを手に取り、過ぎ去ったページをパラパラ捲りとあるページで手を止めた。そして『うんうん』と唸りながら僕と貴音にその絵を目の前に掲げた。
『コレの黒バージョン』
「…え?これって遥のアバターのコノハ、じゃなかったっけ?」
「うん。そうだよ…まさかコノハに似てるの?」
『似てるっていうかまんまコレ。うわーすっごい似てるから驚いたわ』
感心するようにマジマジとコノハを見ながらどこか寂しそうに目を細めていた。
「コレの黒バージョンって?髪が黒?」
『それもあるけど性格が黒』
「仮にも好きな人なのに。その言いようでいいわけ?」
『目つき悪いし、純粋って感じじゃないし。まさに黒だね。他の表現方法を知らないのだよ』
フンって足を組んで格好いい風に言い切った夜鷹に貴音と目を見合わせて笑った。何だか、その言いようが酷いのに愛着を感じる。少なからず好意を抱いているからの発言なのだとわかると少しだけ胸が痛んだ。面白いけど、でも、痛いな。
「じゃあコノハを参考にして…」
スケッチブックを渡してもらい改めて「九代遼」を描いていく。『後ろのしっぽはちょんぎって』とか言って僕のデッサンに彼女が形を織り成す。隣に座って貴音は完成していくその絵を眺めていた。三人で一つの机を囲むなんて学生らしい。楽しくて浮かれて弾む鉛筆が僕の手には握られていた。さらり、と夜鷹の流れるような髪が降りる。それを耳の後ろへひっかけるように指先が無意識に動くさまをどこかぼんやりと眺めていた。いつか彼女の事も描こうかな。貴音2号を描いたのだから彼女を描くのも当然だ、なんてもっともらしい言い訳を考えて僕は線を描き足し続けた。
『目は少し細めで、不機嫌そうな顔で、そうだな人をゴミのように蔑む感じ』
「本当に好きな人それでいいの!?」
『いや……流石に嘘は言えんだろっ!』
「本当にそんな人なんだね……はははは」
「てか、それの何処が好きなの?」
『んーそうだな。何だったかな?』
「そこは思い出してるのよね?」
『まあ、それなりに。そっだなー世間一般の恋愛感とは少し違くてさ。憧れ?いや、何って言うか…ヒーロー?かな。正義の味方。私にとって彼はヒーローみたいな人だったのかな』
ニシシって歯を覗かせて笑う夜鷹は照れを隠してそう笑っているようで。改まって考えるのはそれなりに羞恥心を伴ったのだと感じた。貴音が「それって憧れとか?」ってからかうように攻撃してるけど夜鷹は『いや、アレ憧れにしたら人間腐る』とか言って二人して「 なによそれ 」とか笑ってる。けど、何だろう。僕の心には夜鷹の言った言葉がストンっと降りてきた。貴音へ視線を投げる。ずっと感じていた違和感。友だちだけど友だちという枠の中には納めたくない自分の想い。もしかして…僕の貴音へ抱く想いというのは……「憧れ」だったのかな?
そう想うとはらり、と僕の頬に涙が零れた。ポタリ、ポタリと流れては消えていく。そんな僕に気がついた二人は驚きのあまり立ち上がって、その勢いで椅子がバタン、バタンと二回盛大な音を立てて倒れる。
「遥どうしたの!??痛いの??」
『もしかして昼に食べたパンの賞味期限が切れていたとか?あの購買のおばちゃんがっ!』
「牛乳も?もしかして牛乳もなの!?自販機メが!」
「あ、いや、ちょっと二人とも落ち着いて!き、昨日観た映画が感動的だったからソレを思い出して…はははは」
今にも教室から飛び出して行きそうな二人を必死に引き止めて嘘をつく。すると二人は「紛らわしいな!」とか『動物物は感動だよね』とか言って嘘を増徴させていく。ほんとっ息ぴったりだ。クスっと笑って涙を拭けば「これは悲しい涙じゃない」って言った。
「人騒がせな…で?完成したの?」
「うん。これでいいのかな?」
僕の手で描き上げられた「九代遼」は少しぶっきらぼうな顔をしていた。
『そっくりさんや!』
「へぇーこの顔なんだ……夜鷹って面食いなの?」
『否定はしない』
「だよね。コレすっごいレベル高いから」
『否定はしない』
「遥どうする?相手、イケメンフェイス全快だけど」
「が、頑張るよ!」
『いや、何がだよ』
貴音から受け取ったスケッチブックに描かれた彼に指を滑らせて夜鷹は柔らかな顔をしていた。愛おしいというより懐かしいという方が合っている感情なのだと僕は思いながら貴音に脇をツンツンつつかれ「頑張んなさいよ」ってエールに「うん」って答えた。
もうこの感情の名に迷いなどなかった。この名に恐れる事も、この名に苦悩する事もしない。悲しい微笑みも楽しそうにはしゃぐ姿も、僕は君の事を受け止めてみせる。可能な限り、この命が尽きるその日まで。君の傍に居ると誓うよ。よわっちぃ僕だけど、頑張ってみようと思う。
だから、どうかまだ笑っていて欲しい。僕と貴音の前で。
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