君のうなじばかり見ています
『修哉』


その人はいつも笑っていた。でもその微笑みが嘘っぽく見えたのは僕だけだった。
その人は姉ちゃんの一つ上で、この中で誰よりも大人に見えた。よく笑う人だった。
だけど、どこか一線を引いていた。決して悟られないように微妙に線引きをしていることを僕以外の家族は気がついてはいなかった。


「夜鷹ちゃん」
『ん?どうしたのカノ。眠れない?』


メカクシ団の共有スペースのソファーでその人は本を読んでいた。背表紙にタイトルのない無地な表紙の本を。


「人肌恋しかっただけだよー!夜鷹ちゃんが来てくれないから」


ソファーの背もたれまで近寄り肘をついて彼女と会話を続ける。


『誘い上手になっちゃって。どこのホストだ、まったく』


本を閉じて鍵をかける。余程見られたくないのか、彼女は用心深い。笑いながら僕の頭をポカリと叩く。


「夜鷹ちゃんは、恋人を忘れられないから前に進めないんだよね。マゾヒィスト」
『シスコンに言われてもな』
「そんなに好きな男に殺されるのが趣味かよ。驚きだね、怖いわ。どんな精神で生きてるの?」
『嫌われないよりマシ。てか、死んでも尚愛される女って素敵じゃない?』
「生きてるうちに愛されない限り実感しないと思うけどな―。例えば僕に骨髄まで愛されてみたらわかるかもしれないよ」


蜘蛛の糸のように美しい彼女の髪に指を差しいれてすくいあげる。一房つかんではその毛先に口づけを送った。
夜の帳が深まって来た時刻。蝋燭の灯りがユラユラと揺れた。


「試してみる?」


真っ直ぐに彼女を見つめた。赤い、赤い僕の目が。
だけど、彼女も赤くした目をして。悲しそうに微笑んだ。そっと隠される彼女の掌に。真っ暗な視界。額に感じたのは柔らかな彼女の唇だった。


『おやすみ、”修哉”』


そっと離れていく彼女の温もり。そっと開く瞳に映るのはいつもの彼女の笑みだった。


「おやすみなさい”夜鷹姉ちゃん”」


諦めるつもりないよ。


20160403(加筆修正)
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