※原作小説読破済み
僕には仲の良い友人が2人いる。一人は、一緒にいるだけで楽しい榎本貴音。
目つきとか悪いけど、でもたまに笑う顔は可愛らしいと思う。遠慮しなくても本音を結構言える相手だ。オンラインゲームでは腕利きで全国2位という実力保持者。才能がある。尊敬するなー。
もう一人は御家瀬夜鷹。彼女は綺麗な子だけど、笑顔が堪えなくて怒る時もだけど。貴音と二人で僕の事をからかったり、貴音をからかったりして、面白い子だ。あの少しだけ気難しい貴音とだってすぐに打ち解けて仲良くしている場面を見ると対人スキルも中々凄いと思うし。何よりどこか大人っぽく見える。この前廊下を歩いていたら彼女について男子生徒が「いいよな、御家瀬さん」「我高が誇る美人だよな」と噂をしているのが聴こえた。そんな彼女達が僕のクラスメイトだ。何だか鼻が高い。
放課後の教室。忘れ物をして教室まで戻って来たら夜鷹が一人、窓を開けて風に吹かれていた。
夕刻の日暮れが彼女の横顔をアンニュイに見せる。彼女の口が徐に動く。
『 ハルカ 』
僕の名前?!え、だって僕の事ずっと『遥くん』って呼んで……。
だけどそんな疑問はすぐに吹き飛ばされる。何故なら彼女の頬に一筋の雫が流れたから。
彼女には似合わない雫が、僕の胸をしめつける。ああ……なんか痛い。
「夜鷹」
気がつけば、僕は彼女の隣に立っていた。彼女は驚きはせずに口ずさむように『 どうしたの? 』と尋ねてくる。でも涙は拭っていた。
「ちょっと忘れ物を取りに」
『そっか』
「あの、さっき聴こえちゃって…僕の名前、呼んでた?」
頬を一気に真っ赤にさせた僕が彼女に自称気味に尋ねた。もし、もし僕の名前を愛おしそうに呼んでいたとしたら僕は……僕はっ……!
『え?……あ。ごめん、えっと……違うハルカかな?』
「ん?違うハルカ?」
『そうそう。実は私の好きな人が遥くんと同名でさ“遼”って言うの。それで、その…淋しくなってつい呼んじゃったっていう…うわー恥ずかしい』
口元を抑えて目線を夕日へと向ける彼女は今まで見た事もないくらい可愛らしかった。乙女っていうかそんな感じだと思う。綺麗な彼女のイメージは崩壊しつつあり。僕の胸は少しだけ高鳴った。でも、僕の名前じゃない。同じ読み方だけど“遥”じゃなくて“遼”だ。何か勘違いしそうだな……。
「その遼、くんってうちの学校にいるの?」
『ううん。ちょっと遠い所に居るの』
「外国とか?」
『そんな所かな…中々会えないからさ。つい。やばい、急に恥ずかしくなって来た。忘れて!忘れて!』
バタバタと足をばたつかせながら手で顔を扇ぐ夜鷹は本当に可愛いと思う。そっか“遼”くんって人が好きなんだ。って実感させられる。こんな風に好きな人の前では可愛いのかな?そう思うと、何でだろう?なんか……胸が痛い。発作かな?でもそんな苦しさとは少しだけ違う感じがした。僕は貴音の事を友達と呼ぶには少し違う気がしていた。でも夜鷹の事は友達と思っていた。だけど、何か、その論理が崩れそうな気がした。
「どんな人なの?」
『もう勘弁して!』
「だって気になるよ。夜鷹の好きな人」
『うえ、えっと……髪は黒くて背は高くて、色白で。素っ気なくて冷たくて、傲慢で強引で…色々と感情を振りまわされたっていうか、駄目だって言ったのに…推し進めたっていうか……』
ぷくりと頬を片方だけ膨らませて指で数えるようにおっていく。でもそんな思い出を懐かしそうに、愛おしそうに話すから。ますます僕の胸がキシキシと痛んだ。
「そんなの夜鷹に似合わないよ」
『え?』
「そんな人、夜鷹に似合わないよ。夜鷹の気持ちも考えないそんな人よりっ、僕の方が大切にできっ……!」
思わず口を塞いだ。何を言っているんだ、僕は。感情に任せて口から出た言葉を回収することも出来ずに真っ赤に染まった僕の頬はとうとう首元まで広がっていった。口をポカリと開けて呆然とする夜鷹は、次第にくしゃりと笑った。
『はははははっ!何言って…ははははっ!駄目だ!お腹痛い!ははははははっ』
「笑い過ぎだよ!」
『ごめんごめんっ!でも可笑しくて……ありがとう。でも言う相手間違えてるよ』
「?」
今度は僕の方が首を傾げる番だった。間違えている?この台詞は彼女のために告げたはずなのに彼女はそうとは捉えていないってことなのかな。これは紛れもない夜鷹を思って言った言葉だ。それを訂正して欲しくて口を開くけど立ちあがってひいた椅子から音が出てしまい。僕の声は消されてしまう。
『今度は間違えたら駄目だかんね』
夕日に照らされた夜鷹の笑顔はどこか悲しそうだった。何も言えなかった僕は弱虫なのかな……貴音。
20160403(加筆修正)
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