弱虫ペダル


「 今泉くん 」



オレを呼ぶあの人の声が誰よりも透き通って聴こえてくるから、耳は真っ赤に染め上げる。
何でもないフリをしながら、あなたを盗み見れば、仄かに微笑む彼女の姿が目に入り、思わず頬が緩んでしまう。

甘い砂糖菓子の名前をいくつも上げて、彼女に伝えても、きっと足りない。



「あ、金城くん!」
「慌てて走るな。転けるぞ」



部長の姿を見つけて嬉しそうに駆けていく彼女の後ろ姿を見送りながら、また敗北を味わう。
いつになったら部長に勝てるのか、指折り数えた本数の所為でますます弱気な自分に敗北する。

これも持久戦になりそうな予感に、口元が弧を描く。



「今から走ってくる」
「うん。じゃあここで待ってるね」



練習が始まる合図。部長に呼ばれて自転車ごと進めば、彼女がオレに手を振った。



「頑張って、今泉くん」
「はい」



力強く頷いたその言葉に彼女は笑顔を深める。真夏の下に咲く向日葵のような笑顔に癒されながらも、視線は部長へ向ける。



「負けませんよ」



サドルに跨れば部長は「 望むところだ 」と言いたげな視線でオレの宣戦布告を受け取る。

清々しいくらいの男前な部長に、負けないように、オレはペダルを漕いだ。


ゴールした先に、先輩が待っていることを夢見て―――。


20140305

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