AMNESIA
幸せになってください。
世界に祈った。神に祈った。この世の創造物に祈った。
誰でもいいから祈った。
どうか、どうか、お願いします……。
彼の願いを叶えてください―――。
ずっと泣いてた。ずっとずっと苦しんでた。
病院の簡素な一室で、ベットに横たわる人形のような彼女の陶器のような手に縋りつくように泣いていた。
昔から泣き虫な一面があったことを覚えていたけれど……今は、それが憎らしくさえ思う。
永遠の別れ。寂しさ。時間が巻き戻せたらいいのに……時をかける少女を夢見た。ぼんやり、そう思う。
「彼女の居ない世界なんて…俺は……いらないんだ。彼女が居たから俺は……っ」
淋しさを誰も理解出来ない。空虚なる空洞を知ることなど不可能だ。誰も他人の感情に口を出す事も愚か、手も足も出す事など出来ないのだから。そんな当たり前な事柄だとわかっていても、今はそんな空想にもすがりたい一心だったのかも、知れない。わたしも彼も……。
「彼女を生き返らせられるなら俺は……っ。悪魔にでも心を売れるよ。だからっ……!!」
喉から血が出そうなそんな……彼の叫びに、創造物は聴き入れてしまった。この選択は間違いなのだろうか?いや、間違っているはずがない、と言いたい。
時をかける事に、彼は死への恐怖を味わうことを知り、そして。彼はついにその恐怖から無意識に逃げるようになった。
これはきっとわたしの所為だろう。隣で静かに見守っていたわたしは、何もしてないのだから。手を出す事ができない、それは理由にならない。彼のために、彼女のために、何か出来る事はないか。それを考える事さえわたしは放棄していたのだ。
どこかで、彼女が或いは、彼が死別すればいいとさえ思っていたのかもしれない。
けれど……いつも、この場面を見ると思ってしまうんだ。
「俺はっ……おれはっ……ああああああぁっぁああ!!!!」
彼女の亡骸を再び抱きながらそれでも亡霊のように彷徨う。ただ、彼女に会いたくて、愛したくて、愛されたくて…その一心で。
馬鹿な男だな。それで自分が死んだら意味ないじゃないか。それで死んだから誰が彼女を幸せにするんだ?幸福にするんだ?笑わせるんだ?泣かせるんだ?喜ばせるんだ?彼女の意思は?思考は?想いは?心は?
別の世界で彼女が倖せな別の男と一緒に過ごす日常を見て、何故嬉しそうに笑うんだ。何故、泣くんだ。涙を流すくらいなら、行動すればいいんだ。
なのに……わからない。わからないから苦しい、けど……。自身の方がわからないや。
何故、こんな馬鹿な男について行くのか。何故、止めないのか。同情しているのに、何もしないわたしは嫉妬しているんだ。
ああ、情けない。ああ、愚かしい。馬鹿馬鹿しい、実に阿呆すぎて呆れて死にたい。
だから……。もう終わらせようと思った。
それがきっと正しい正解なんだ……。
「……なまえっ!?」
「なまえさんっ!!!」
下腹部に感じる冷たい感触と生温かい液体の温度。手がぬるぬるして気持ち悪いや。前のめりに倒れると彼に肩を支えられる。
彼の胸に頭を押しつけながら、視界が霞んで行く。
「ぅ……ん。ただしいっ」
「何を言っているんだっ!いいから喋らないで!どうしようっ」
「なまえさん!し、止血しなきゃ!きゅ、救急車っ」
二人がタオルとか探して携帯で救急車を呼んでる姿を見て、安心して喉を鳴らしてしまった。
「あはは……」
「何笑っているの……?君はっ、ナイフで俺に刺されたんだよ?!」
「もうすぐで救急車が来ますから!応急処置しますからっ!がんばってください」
「だって、ふたりとも……もうなかいいから……」
「え」
「…っ」
口から血が溢れて来て、なんかドラマみたいだなって可笑しくなってまた笑ったら今度は涙が出て来ちゃったよ。
ドロドロと身体が流れていく様を呆然としながら眺めて、二人の手を取った。
「ごめん、ね……っ」」
「なまえさんっ!!」
「……なまえ……」
もう、助からないってわかってたから。こうなることはもう、予想してたから気にしなくてもよかったんだけど。やっぱ気にするよね。
今、さ。わたし結構シアワセなんだよね。
だって、今度はウキョウを助けることが出来たから。今度は彼女を助けることが出来たから。
これで、二人とも泣かずに済むよね……もう誰も苦しんで欲しくない。ウキョウも彼女も……。
もう、泣かなくていいよ。これからは彼女と幸せに過ごして欲しい。生活してほしい。護ってほしい。
この世界では二人のどちらかが死ねば成立する世界だけど、わたしが死んでも世界は元通りになることを黙ってたわけだし。
まあ、死にたくなかったってわけで…いつまでも引き延ばしにしてごめんって。
ウキョウの傍に居たのは、わたし自身でもわからなかったけど。もしかすると、彼に殺されたかったのかも。
気づいてほしかったのかも……。わたしを殺せば苦しみから解放されることを……。
結構周り道させちゃったし。ここいらで、邪魔者は退散するよ。真実に辿り着いた彼女と恐怖を乗り越えたウキョウに会えたわけですし。
「 またねー! 」
手を振って笑えば、二人して泣いてたね。
あとがき
アムネシアのウキョウさんの幸せな笑顔を見てしまうとレイターをプレイ出来ない彰人の心境だった。
これは、ウキョウに対して少しだけの好意を持った女の子が二人の幸せを祈って死ぬ物語、になってしまった。
死ネタは、ちょっと淋しいね。
2012.04.09
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