starry sky

苦渋の決断より、楽観視でどうよ。



静寂に包まれた弓道場で、今日も月子は弓を引く。大寒波だというのに、彼女は寒くないのだろうか。
マフラーとコートにくるまりながら彼女の射型を鑑賞する。膝を抱えてブランケットをまた巻いて、寒そうな弓道着にぶるりと首を揺らして白い息を吐きだす。立派に空気を切って、皆中を狙う。澄みきった冬の空気さえも射抜く矢は、雪よりも綺麗に見えた。


一吹き、風が吹くと弱音を吐いたのはわたしの口だった。



「月子さーん。さむいっす」
「あ。ごめんね。熱中しちゃって……。帰ろうか」



寒かった?と聞いてくる彼女に寒かったと震えれば再び謝れて急いで着替えて来ると更衣室へと走っていく彼女。



わたしは一人意味も無く弓道場に残る。息を吐きだせば、立ちのぼる白い息。空気が澄みきっているから粒子まで飛んでいる気がする。
積雪が壁に残っている。少しだけ高く積まれたその雪の層を眺めていると、崩れるように雪が落ちた。


呼吸音を響かせて、瞳を瞑ると、意外と温かな感じがした。そのまま瞳を瞑って瞑想する。
色々なこと。様々なこと。沢山のありふれたこと。


例えば、音とか。声とか。生活とか。料理とか。晩御飯とか。雪とか。宮地とか………。


宮地……宮地……?


ふと、頭に浮かんだ彼の名前。名前が出て来るとすぐに再生される彼の姿見。そう言えば、今日はまだ会ってない。
可笑しいな。いつも月子の隣に居ると、彼は現れるからてっきり彼女が好きなのかと思ったのに、今日は会えないなんて、可笑しすぎるでしょーがぁー。


だいたい、いつも月子見るなり過保護かってくらい大事に大事に扱って、お前は父親か保護者かってんだ。木ノ瀬が面白がって宮地でからかうだけに月子に近づくとびぃーびぃー怒鳴って、後輩に遊ばれてんぞ宮地や。ほんと、情けない男だ。その上甘い物大好きで毎日クリームまみれ。もういっその事、せいえ―――(自主規制)も生クリームに替えちまえ。


……うわ、ゲロりそう。つーか、吐きたい。そんなの飲みたくないし。強要されたら殴り飛ばして全治三カ月くらいにして病院送ってから、記憶を消すまで殴ろう。



「………はぁ」



瞼の裏では真白な雪が反射して眩しいだろうから、溜息をついたところで瞼を開ける事はしない。その前に自身の情けない顔を見たくなかった。

……会えないことが寂しいとか、悔しいとか、気持ちがあべこべになって、パンクしそうになる。

欠伸が出て、脳に酸素が足りなくなる。眠い……このまま寝てしまえたら、この思考をしめる奴のことも消えてくれるだろうか。明日には、また奴に会えるだろうか……。



「――っ、おい」
「…っ」
「――おい。みょうじ」
「ん……ぁ」
「おい。起きろみょうじ。こんなところで寝るんじゃない」
「ぁ……みや、び?」
「誰がだ!どこぞの平安貴族だ俺は。宮地だ。いい加減寝ぼけるな」
「ああ……なんだ、宮野小路きみまろさんか……お久しぶりです」
「誰が落語だっっっーーー!!!!その前に、目を覚まさんかぁぁぁぁああああ!!!」
「ったぁ!」



宮地の怒りの鉄拳を旋毛に受けたおかげで完全に目を覚ましたが、その代償は大きかった。



「ってぇー。まだチカチカするな」
「お前が悪い」
「だいたい名前間違えて寝ぼけただけで殴るか、普通。仮にも女の子だよ、わたし」



自身の事を指で指し示すと、鼻で笑われた。その顔に勘が障ったから足で関節部分を蹴り飛ばす。蹴られた宮地は前のめりになってバランスを崩しながらもそれでも、何とか扱けることなく佇む。



「チッ。んのまま扱けてまえ」
「みょうじ……。お前は行儀が悪すぎだ。こんな事するから女に見えないんだ」
「だまれ、落ち武者」
「まだ落ちてないぞ、俺は」
「考え方が江戸時代〜」
「古風と言え!せめて古風とっ!遡りすぎだ!」
「時代錯誤じゃない?」
「馬鹿を言うな」



後頭部を軽く平手が飛んでぺちんと軽快に鳴った。加減していることはわかる。その分言葉に遠慮はないけどな。
力を抜くように吐き出せば、白い息はのぼるのだ。やすやすと、な。



「そーいえば、月子は?」
「先に帰らせたぞ。お前に付き合っていたらあいつにも悪影響が繋がるからな」
「貧乏神か、わたしは」
「変わらんだろうが」



うえ、ひでー言葉だな。マフラーを上に上げて口元を覆う。寒いからだ。歩幅を合わせて隣同士で歩く速さは同じ速度だった。
肩を並べていることが、心を軽くさせる。はっ、宮地の癖に。



「夜久に風邪を引かれては困るからな」
「そーですね。このDV野郎。言葉の暴力はんたーい」
「ったぁ!だから、お前の脚はなんとかならんのか!」
「美脚に何を申す」
「足を上げるなっ!」



宮地の背中を二三発蹴ると宮地は振り返る。そうすれば足を上げている姿を見られてしまい、彼は慌てて注意して足を下げさせらた。そうしなければ、スカートの中身が見えてしまうからだ。だから、こういう所が江戸時代なんだよ。西洋服なめんな。



「大丈夫だよ。中身は毛糸のパンツだから」
「っ公言、するな!」
「何故なら、温かいから!」
「賢くもなんともないからな。お前のその発言はまったく違うからな」
「こっちを見て喋らんか、宮地」
「っ。さっさと帰るぞ。大会が近いんだ。俺も風邪を引きたくない」
「…なるほどね。だから月子を帰したのか。……でもわかりにくっ」
「はあ?それ以上の意味がないのだから別にかまんだろう」
「乙女か。お前は」
「何故、言われなくてはいけないんだ」
「あ。雪」



長居していたら、空から白い結晶が振り降りて来た。それは、ふわふわとしていて、でも触ると冷たい棘のように痛い雪。
結晶は可愛いが、掌の温度に負けてその姿を見るのにものの三秒で終わってしまう。なんともツンツンキャラなんだ。
宮地も上を見上げてふり続ける雪を見つめる。その姿に見惚れていると、鼻の頭に雪が付着した。物好きめ。



「……雪はわたあめじゃないからな」
「わかってる。俺を何だと思ってるんだ」
「甘糖キングダム」
「城か!」
「ああ、砂糖」
「違う!かけたわけじゃない」



掌をポンっと叩けば、宮地は全力で弁解してくる。恥ずかしいのかこのおぼっちゃんは。
ニヒルな笑みを浮かべていると、自分の状態に気がついたのか咳込みをして落ち着き始めてしまった。



「いいか。お前が風邪を引こうが熱を出そうが一向にかまん。お前は一般生徒。部活にも入ってないのだから当然だな。だが、夜久は違う。大会を控えた大事な選手だ。その妨げとなる障害物は避けさせねばならん」
「はいはい。わかってますよ、宮地将軍。お姫様が大事なんですね、あーもう。早く言っちまえ。んで、逝っちまえ」
「笑顔でニアンスの違う言葉を言うな」



雪が降り続ける中、歩いても歩いても雪がついて廻る。その所為で髪が白く染め上げられる。濡れるのは勘弁だ。
歩きながらも、宮地はうんぬんうんぬんと語って来る。いや、説教か。しかしだな。この悪天候の中よう喋るなこやつ。

鼻息をふんっと洩らして、マフラーに顔を埋める。耳にタコ。いや、耳に糞。
半ば一切聴いていなかったが、突然突拍子もなく前説も、恥じらいもなく。そういう雰囲気でもないのに、宮地は平脈で口をすべる。



「お前なら万が一風邪を引いても俺が看病してやれるからな。ゆっくり身体を休める事も出来るし、気に病む出来ごともない。寝ていれば治るような病気でも見舞いに行ってやれる。気軽にお前になら会いに行ける」
「………はぁ?」
「一回しか言わん」
「いや、今の発言に恥じらい部分はないぞ宮地。突拍子に何を言うか。寒いから早く帰るぞ」



ポケットに突っ込んで居た手で宮地の腕を掴み先を促せる。宮地は若干腑に落ちない様子のまま引っ張られていた。

今は、気軽に会える存在の方が嬉しいんだよボケ武者。



あとがき

久しぶりにスタ☆スカ更新。
最近スタ☆スカを『 スカスカ 』とか『 スタスタ 』とか『 スカスカ 』とか言ってしまうんですよねー。
呂律が回ってないんでしょうかね。エヘ。

2012.02.16

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