うたのプリンス様
※翔ちゃんを避ける番外編
走れ、走れ、走れ……!
あいつを探していたら、出かしらに七海とぶつかって勢い余って彼女を押し倒すかたちに。
それをたまたま歩いてきたあいつに見つかって、顔見知りがどんどん集まって来る。自然な法則に驚きと呆れがぐるぐるとうずをまく。けど、あいつは何も言わずに黙って俺達を見つめていた。
癇癪を起こすわけでも、怒鳴るわけでも、泣くわけでもない。ただ、黙って俺と七海を見つめていた。
何も言わない彼女に不信に思った。弁解しようと七海も口にすればやっと、彼女は口を開けたが…何も出て来ない。
だけど、その表情に驚いた。初めて見たんだ、あいつの泣き顔。
今にも泣きそうな、辛そうな、そんな笑顔で俺を見つめていた、あの瞳。
驚いて、声が出なかった。出て来た言葉はあいつの名前。その瞬間、彼女は走り出す。慌てて起き上がり、彼女を追いかけた。
七海の謝罪や周りの言葉なんて耳にも届かずに、ただただひたすらに彼女の駆ける背中を追いかけた。
俺が…あんな顔させた。傷つけたないと誓ったのに……!なにやってんだ、俺ッ!!
暫くして、湖のほとりで立ち止まったあいつは、水面に顔を覗かせて涙を流していた。
ああ、泣いている。あいつは……俺の所為で泣いている。今、泣いているんだ。
ごめん、ごめん。俺が馬鹿でごめん。
震える後姿、戸惑いの声。でも泣き声が聴こえない。そんな彼女を見て俺は衝動的に彼女を後ろから抱きしめた。
強く強く抱きしめる。隙間風させ入らないように、彼女を何からにも守るように、強く俺を感じて欲しい。
「しょう、ちゃん」
と、あいつが俺の名を口にした。まだ、俺の名を口にしてくれるその唇に、俺は泣きそうになった。
こいつは、どれほど傷ついたのだろう。俺はどれほど彼女に傷を負わせたのだろう。
こんなに震えて、こんなに小さな手で、俺に触れて来る君を……俺は……ッ。
そう思うと、俺の衝動は止まらない。その小さな手をとって彼女を正面から抱きしめた。
「……ごめん」
この言葉しか、お前に捧げることができなかった。
どうかそんな泣き方がだけはしないでくれ。俺に抱かれる彼女は俺の謝罪を聴いているうちに、子供のように泣き声をあげた。
やっと聴こえたその叫びに、俺は満足して更に彼女を抱きしめた。
泣き叫んでいい、叫んだら俺がお前を泣きやむまで抱きしめていてやれるから……。
頼むから、俺の前で泣くのだけは我慢しないでくれ。
あとがき
翔ちゃんに想われたいかたカモーン!寒さを切なさで乗り越えようぜ!甘さだけじゃない。寒さは切なさの寒さでもあるんだから……。
2012.02.16
ALICE+