うたのプリンス様

開いて閉じて……殻のナカ。



見なければよかった。


そう判断するまでわたしの脳内には、そんな言葉すら存在していなかった。
目の前に、春ちゃんと春ちゃんを押し倒している翔ちゃんが居た。翔ちゃんは慌てた顔をしていたけど、春ちゃんは驚いて。
お互い顔を真っ赤にしていた。そんな光景をただ呆然と眺めていただけ。


何か浮かぶ想いは……、残念ながらナニモナカッタ。



「何やってんのおチビ」

「来栖貴様っ」

「うわー翔ちゃん大体ですね」

「翔……裏切り者っ!」

「はぁ…」

「……」



口々に皆は何か言うさまをただ聴きながら、視線は翔ちゃんと春ちゃんから逸らされる事はなかった。



「お、おまっ!誤解すんなよ!?」

「違うんですよ!なまえちゃん!!翔くんとは何もっ!」

「………」



口を開けたけど、言葉が出て来なくて。黙って頷いた。焦っている翔ちゃんの顔と春ちゃんの顔。


何故、弁解してくるのだろう……。
不思議に思うけど、わたし、いま、どんな顔してる?



「っなまえ…」



翔ちゃんがわたしの名前を呼ぶけれど、それすら何だか耳障りに聴こえた。立ち上がる翔ちゃんとそれに連なって春ちゃんも身体を起そうとする。その姿が酷く、目障りに思って、だから、身体を反転させてこの場から逃げ出した。

走って、走って、走って………気がついたら早乙女学園の端の端。湖まで来ていた。



「はぁ…はぁ…」



両手を膝に置いて、息を整える。全速力で走った所為で息が中々整わない。冷たい空気を吸い込むと喉から冷えた。
咳こんで、鼻から空気を吸うと、少しだけ落ち着いた心臓。



「………酷い顔」



湖に映る自身の顔色を眺める。どこか他人事のように言ったけど、元々酷い顔をしていたからなんだか納得。
傍に落ちていた小石を湖に投げて自身の顔を消した。波紋する湖の水面。
水面に映るものはすべて、本物とは限らない。だけど偽物だとも思えない。



「……どうした、わたし」



自分でも解らない感情がぐるぐるする。落ち葉の絨毯に腰かけて冷たい風に吹かれ、気持ちをしずませた。
あれは事故だ。たまたまその現場を見てしまっただけだ。タイミングがわるかった。……タイミング?タイミングって?
翔ちゃんは春ちゃんを好きで押し倒したかもしれない。もしかするとそうなりたかったのかもしれない。


たまたまが望んだことなら………。


ゴクリ、と喉がなった。
邪魔、だろうな。わたしは、邪魔。邪魔者。似合いの二人の間にいるお邪魔虫。



「……あれ?」



冷たいって感じて、頬に触れたら水滴だった。雨でも降っているのかと上を見上げると雨は降っていなくて曇り空。
不思議に首を傾げている間でも、その水は絶えなかった。ボロボロと落ちて来る。一体なんだ。

水面に顔を覗かせると、そこには瞳から涙を流している女がいた。
……わたし?



「へ?…うそ……え?」



両手で頬を触れると指先に雫が落ちる、おちる…。泣いている、わたし。わたしが、泣いている。そう自覚すると涙は本格的に流れ始めてしまった。



「かな、しくない…かなしくない、かなしく、なんて、ないのにっ」



止まれ、止まれ、止まれ!!!


瞼を両手で押しつぶす。けれど、そんなんで、涙が止まるわけなかった。



「なまえっ」

「ッ……し、ょ、う、ちゃん?」



名前を呼ばれると同時に後ろから抱きしめられた身体。首元に通る腕に力が込められるのがわかる。



「しょう、ちゃん」

「………」



彼の名前を呼んで、躊躇しながらもそっと指先を彼の腕に乗せると急に、翔ちゃんがその手を掴んでわたしの身体を方向転換させて強引に前から抱きしめられる。



「どう、したの?」

「……ごめん」




何かに震えている翔ちゃんの声が喉から聴こえた。何かに耐えているような声。更に強く抱きしめられる。頬が彼の胸板にぴたりとはりつく。そこから香ってきた彼の香りに、わたしの感情が落ち着いた。



「ごめん……マジで、ごめん。……ごめんな」

「……っ……うう…」



泣き声が出た。
背中に回したわたしの指が彼の背中を掻き抱いた。


辛い、痛い、嫌だ、触れないで。



わたしは春ちゃんに……嫉妬したんだ。



あとがき
好きなサイトさんで目撃した翔春のイラストを見て……涙が流れました。(BGMは失恋ソングだった)そんな衝動にかられて出来た作品。やっぱ春ちゃん敵だわ。


2012.02.16

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