ハマトラ


「……れてる」
「ん?窓なんて覗いてどうしたの?」



窓辺のある小さな部屋から覗いた世界は、とても輝いて見えた。何気なしに呟いた言葉に、彼は反応して持ってきたホットココアを私に手渡しながら顔を覗き込むように屈んだ。
それを受け取りながら手元にショコラ色の液体をカップの中で揺らした。隣に腰をかける音が聞こえても、私は受け取った白いカップに視線を向けつつも、やはり、窓辺が気になった。横目で窓の外を見つめると彼も興味を示して同じように外を眺めた。



「外、出たい?」
「……別に」



眉を下げて彼は笑う。その真っ白な髪が嫌味のように揺れる様が私の腹を煮立たせる。そっぽ向くように首を限界までよそに向ける。
そうすると視界は更に外の世界へ魅了されてしまい、私は結局目が釘付けになってしまう。
そんな私に、彼はくすりと喉で笑ってから私の名前を柔らかく呼んだ。



「なまえ」
「……」
「出かけよう。僕には君がいないと、また夕飯がカロリーメイトになってしまうから」
「…それは嫌かも」



私の予想通りの言葉にアートは笑った。それは馬鹿にしたような顔ではなく、心が温かくなるような優しい色合いだった。黒いコートを着て、彼は私に腕を伸ばす。真っ白なコートに身を包んだ私はその腕に腕を絡ませて、引っ張るのだ。君の予想を斜め行くように…。



「アート、早く早く!」
「そんなに急がなくても…」
「幸せが逃げちゃうじゃない」
「それは、大変だ」



外には幸せが溢れている。

でも、私の心には適わない。

アートと一緒にいられる私の心には、適わない幸せなのだ。

20140223

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