弱虫ペダル


「なまえ。今度の日曜日俺と一緒にデートしよう」
『荒北、金属バット貸して?』
「持ってねぇーヨ」



窓際の荒北とその隣に座る私。通路を挟んで新開と、今日もこのクラスでは新開の挨拶並に軽い口説きが始まっていた。



『荒北、席替えしようよ。席替え』
「無駄だろう。何回やってもこいつはもれなくオマエの隣についてくる」
『そんなアンハッピーセット要らないよ。あげる』
「リリースさせて」
「おい、靖友。俺のなまえと楽しそうに会話するのはやめてくれ。羨ましすぎるぞ」
『本気でこいつどうにかして、荒北。一生のお願い』
「切実すぎて叶えてやりたくなるゼ」
『第一、私。こいつに気に入るような行動取ってないし。寧ろ私は福富くんの方が好きだし』
「オマエは見る目アンな」
「寿一はなまえを満足させることは難しいと思うぞ。何せあいつはチェリー君だし」
『汚れを知らないとかますます好みですよ、新開サン』
「俺もみょうじに同票」

「そこ、静かにしろ。授業中だぞお前ら」



教師の言葉に私たちは静かに返事をしながらもノートから一切目を離してはいなかった。



『あ゛ぁ……疲れた』



図書館の窓辺に倒れこむとその隣で壁に背を預けながら部活の休憩で居る荒北に頭を撫でられる。



「オツカレ」
『癒して、マジ、癒して』
「へいへい」



撫でられながら遠い目をして荒北へ視線を向ける。それに気がついたのか荒北は私の眉間に寄る皺を指先でマッサージする。



『ぐぐ』
「おもしレー顔っ」
『ちょっと、荒北っ』



顔を上げた瞬間、唇に触れた熱に押し黙る。すぐに離れると互いに見つめ合いながら恥ずかしそうに再び目を瞑り重なり合う。



「ああー言いてぇ」
『ごめん』
「仕方ねぇーだろ、コレばっかりはヨ」



そう言って荒北は私の頬を撫でながら髪を梳く。頬を少しだけ桃色に染めながら眉を下げて落胆する。


(言えるわけない、まだ)
(傷心仕切っているアイツには毒よりも痛ましいだろうナ)


20140512

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