弱虫ペダル


「………オイ」
『巻ちゃん……ッ!!』
「鼻抑えんなっショ」



悶えている彼女を尻目に借りた鏡の中に映る俺のサイドの右側に一房だけみずあみが施されていた。それは眠っている間に彼女が仕掛けたことだとはわかるが、何故彼女が床にゴロゴロとしながら悶絶しているかは、これが彼女の好きなゲームに登場してくる男と同じ髪型だからだそうだ。普通、それを彼氏にやらせるかよ、オマエ。しかも、随分と可愛らしい顔をしているな、オマエ。



『ああ…神は私に三次元での生きる気力をお与えになられた』
「大げさだろ、オマエ。つぅーか、オレに失礼っショ、謝れ」
『ああ!巻ちゃん今だけキャラ名で呼んでもいい?』
「逆さに吊るすぞ」
『チッ。ケチだな』
「彼氏に舌打ちすんなっショ」



一房だけみずあみにされたその髪を摘むように持ち上げれば彼女はそれを解くなと俺の手首を掴んでは本気で折る勢いで握ってくる。オマエのその情熱なんだシ。
溜息を零しながらも、惚れた弱みとして彼女の悲しむ顔を見ないで済む方法を選択した。



『見てみて、巻ちゃん』
「なに?」
『お揃い』



嬉しそうに自身の髪の左側をみずあみしたのだろう、指さしながら笑う彼女のハニカムその顔に口元を手の甲で抑えた。
何で、俺の彼女はこんなにも可愛いのか困ったものだとバカップルのように悩んだ。



「バーカ」
『あ。ウキョウさんそんなこと言わないし』
「俺は巻島祐介だっての」
『知ってるよ。三次元では巻ちゃんが一番好きだもん』
「唇尖らせるなっショ。キスするぞ」
『きゃーエッチ』
「それ褒め言葉っショ」



夕暮れの教室で影だけが重なっていた。



(巻ちゃんもオレに劣らぬバッカプルぶりだな!)
(一緒にすんな忍者野郎)
(俺は山神だっ!!)


20140512

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