君と僕。
過去拍手
書いたことないキャラシリーズ



冷たい君の手が………。



「はあ…、何で冬は寒いのかな」
「それ言ったら冬の存在定義がなくなるからやめろ」
「要は一々小五月蠅いよね」
「きっといい姑になるな、要っち!」
「「 ねー 」」
「お前等マジでクソ寒いこんな日にふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!!」



そう言って、要が俺と千鶴を追いかけて来る。この真白に染め上げられた路上の上を。そんな俺たちを遠巻きに春が苦笑していた。



「怪我しないといいんですけど…」
「大丈夫じゃない?雪って結構クッション素材だし」



マフラーを巻き直しながら悠太が隣で手に息を吹きかける彼女に声をかける。



「こんな寒い日に手袋忘れるなんて、おっちょこちょいだね」
「それは否定できない……。うぅ」
「あ、じゃあ僕の貸しましょうか?」
「いいよ!春ちゃんの手があかぎれだらけになったら、……わたしが茉咲に殺される」
「何その想像がつく未来日記」
「はい?」
「はい。冗談抜きに。仮にも女の子なんだから…」



そう言って、悠太が俺とお揃いの手袋を両方、彼女に手渡す。それを眺めていたら、要にどつかれて地面に倒れた。正直、めちゃくちゃ痛い。この借りは必ず返す。そう決意した。



「おい祐希?」
「ゆっきー?まさか……!要っちに蹴られた背中が致命傷になって!」
「それで死ぬ奴いたら拝んでみてぇわ」
「大体要っちは加減ってもんを知らないから」
「てめぇらも人の神経逆なでする加減を知らないだろうが」



言い合いを始める二人を余所に冷たい雪から顔を出す。



「ああ、つめたっ……」



呟いた言葉は溶けて行く。きっとこの雪も明日には溶けて消えているかもしれない。そう思うと、有難い気もするし、迂闊にも邪険に扱うことが少しだけ躊躇される、かも。ゆっくりと立ちあがって服についた雪を払って、髪を揺らす。やっぱ少しだけ髪にも雪がついていたみたいでパラパラ落ちていく。手袋をつけたままの指が髪を撫でる。すると、視線の先には、悠太の手袋を受け取りながらも、恥ずかしそうに頬を染めている君がいた。



「おい、祐希……って!」



要が肩に置くと同時に、何か知らないけど身体が勝手に動いた。雪の上を駆け足。ズボっと足跡が深く刻まれていく中で、夢中で手を伸ばして彼女の手を掴んだ。見上げた視線は不思議さと同時に淡雪を連想させた。



「祐希くん。どうしたっ」
「悠太。これ返す」
「え?祐希…って、ちょっとどこ行くの?」
「先に帰る。じゃあね」



それは、本当に出任せなんじゃないかって、自分でも思うくらい。簡潔に述べた冷たい言葉だったと思う。後ろから何か言ってるけど、それすら、今は聞いている余裕なんてなかった。気持ちが焦る……心が焦躁する。
どれくらい歩いたのかな。大股で歩く俺に小股で着いて来ながら数分後。彼女が声が聴こえた。



「祐希くん」



その声に、やっと足を止めることが出来た。ほんとっ、何でだろうね。こんなにも不安と焦りと後悔に苛まれながら恐怖でゆっくりと彼女の様子を窺うとか。でも、次の瞬間。鼻の頭を真っ赤にさせる彼女を見たら、何だか申し訳なさの方が勝った。繋いだ手を離して余所を向く。



「……えっと……、うん。あ、っと……ごめん」



謝るだけでこれだけの時間を遣うのに、言った後の反応を窺う方がよっぽど怖かった。だけど彼女の表情は、いつまでも粉雪のように柔らかいままだった。



「別に大丈夫だけど。どうしたの?」
「……な、んでもない」



ああ、本当に、どうしようもない。

口元を掌で覆い隠して誤魔化した。恥ずかしくなって真っ赤になる自身の頬をどうやって誤魔化そうか。そうだ、走ったから赤くなったとか、そんな勘違い方向線でお願いします。



「帰ろうか?」



そう言って微笑む君に、俺は首を縦に動かすだけで精一杯だった。君の寒そうな手が空気を切る度に、どうしようもなく触れたくなるから、本当に、困った。



隣に並ぶ君の指先に、態と触れるまであと10秒。

手袋を彼女の左手にはめるまであと5秒。

彼女の手をポケットに導くまであと3秒。


君に想いの丈を伝えるまであと………。


(祐希くんは温かいね)
(まあ、俺の手が温かいのは誰かさんの手を温めるためだから)


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