黒子のバスケ
学校に登校したら、女子がそわそわしていた。何があるんだと今日はポッキーではなくプリッツを持って来たゆーみんに聞いてみた。
「今日なんかあんの?」
「ホワイトデー」
素っ気なく答えられて納得。そうか、今日がホワイトデーか。最近カレンダーみないから忘れていた。プリッツをくれるゆーみんの手から三本ほど食い付き、ふらふらと上下に揺れるプリッツ。
「あんた彼氏いるんでしょ?遠距離だけど」
「ん。いるー遠距離やけど」
「どこだっけ?」
「京都。マジ羨ましい新撰組巡りとかむっちゃしたい」
「どうでもいい」
カリ、とプリッツが折れる音が響く。ゆーみんは相変わらずお菓子を食べると色気が増す子だなーって嘘々。元から色気ムンムンです。出るとこ出てますからねー。まあ、わたしは足フェチなので論外ですけど。とか失礼なこと考えていると頭を殴られます。
後頭部を抑えながら悶えていると、ゆーみん先生からのお告げが。
「彼氏からのホワイトデー、気にならないの?」
「……え、来るの?」
見返りとか期待してないわたしに、ゆーみんがめっちゃ泣いていた。何か凄く優しくしてくれたけど、この見返りが恐いとか言ったらまた殴られた。今日は殴られデーなのかって疑っちゃったよ。だいたい赤司から来るわけがない。ハサミ持ち出しちゃうような子だよ?自分が一番とか、寧ろ俺には勝利しかないとか言ってる人だよ?そんな甘ったるい子供っぽい行事なんて頭にあるわけない。彼の記憶に留めておくほど価値はない。わたしのバレンタインのチョコだって気まぐれに送られてきた物だとか思っているはずだし。普通にメールでありがとうの一文だけだった。電話じゃないのが寧ろその証拠だよ。ああ、塩辛いのが食べたい。クッキーとかマシュマロとかキャンディーとかいらないから…苦いモノちょうだい。

最近日が長くなった夕日を眺めながら土手を歩いていた。気分転換も兼ねての散歩だ。犬の散歩に来ている人やジョギングしている人。小学生の子供たちがサッカーなんかもしてた。賑やかなその場所を独りでとぼとぼ歩いている。家に帰るのを先延ばしにしながらわたしは今日と云う日を遅らせた。今日なんて過ぎなければいいのに。時間よ止まれ……。
そんな事言ってもわたしはタイムキーパーでもないのだから時間なんて操れません。お腹も減ったし帰宅路についた時、家の門の前で見覚えのない人物が立っていた。思わず立ち止まると彼がわたしに気がつきこちらに近寄ってくる。そしてわたしの目の前に立つとわたしの額にコツンと包装された箱をぶつけられる。
「あ、いた」
「遅い。どこほつき歩いているんだ」
「どこって、そっくりそのまま返したいよ。赤司が何でここにいるのさ」
「…君という子は、どこまでも愚鈍だね。時々可愛らしく視えるよ」
「褒められてる気がしません」
額を摩りながら赤司を見つめるが、赤司はそんなわたしの視線を甘んじて受け入れて尚も笑うのだ。短くなった髪にわたしは慣れないから、じっと見つめてしまう。そんなわたしに赤司は、顔近づけてキスをした。
「……何してんの」
「おねだりかと思って」
「いやいや。してないからとんだ勘違いだよ赤司君」
「そうかい?でも物欲しそうな顔をしていた」
そう言ってわたしの髪を一房とって不敵に笑うから、わたしは余所を向く。そして膨れるのだ。こんなことしか出来ない。赤司は嫌味なやつだ。両手を差しだせば、そこへコトリと置かれる包み箱。それを乱暴に破きながら開ければ中からマシュマロが出て来た。それを一つ摘み、無言で咀嚼する。そんなわたしの態度を面白おかしく笑う。
「ホワイトデー。気に入った?」
そう聴かれて悔しいからマシュマロをその場で全部食べてやる。食べ終わった箱は丁寧に鞄にしまった。
「君へのチョコのお返しは完遂した。次は君から僕へのお返しを済まそうか」
「……いらないよ。てか、もう、ここに来てくれただけで叶った様なもんだし」
ああ、本当に単純だ。嬉しいと思ってしまう。京都から今日の日のために来てくれた事にわたしは泣きそうなほどに嬉しくて、でも笑ってしまう。そんなわたしの頬を赤司が触れると顔を向かされる。
「それでは僕の気が収まらない。黙って受け取っておくれ」
そう言って貴方は、もう一度口づけを施した。

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