黒子のバスケ
「これもいいんじゃない?」
「……」
ぶつくされてる顔をしながら、わたしは、自分よりも綺麗な男性を見上げた。女の子のショップで浮く事もなく、普通に自分で試着出来てしまうくらいのこの雰囲気に馴染む玲央先輩は、本当に、とても、美しい人だった。
カチャ、とハンガーの擦れる音がすれば、顔を重くそちらへ向ける。見上げると嬉しそうな玲央先輩の顔がそこにあった。朝からわたしは、着せ替え人形のようだ。
「うーん、あなたなら淡い色も着こなせそうね。青、も綺麗なんじゃない?」
「……先輩。そろそろ解放を要求します」
「却下」
語尾に、ハートマークつけるのはどうかと思います。眉をぴくりとだけ動かして、小さな溜息を溢した。ああ…いつになったら、このごっこは終わるのだろうか。そろそろ限界。
「じゃあ、このワンピースとそこのボレロで」
そう言って、店員を動かす。その動きにわたしは瞳を輝かせた。それは、買ってもらえるからの期待感、とかではなく。解放感、でした。
「素材が可愛いのに、何でお洒落に興味ないの?」
休憩をせがんだわたしのために、カフェでまったりとお茶をしていた。湯気の立つ紅茶を飲みながらほっとしていると、玲央先輩からの突然の問いかけに暫し、絶句する。顔に出ていたのか、玲央先輩は長いその腕を伸ばして、わたしの額にコツンと手でノックした。
「コラ、彼氏の前でそんな顔しないの」
「先輩。お言葉ですが、知ってて尋ねるのもどうかと思います」
額を撫でながらそう言うと、先輩は溜息を溢した。それは、納得した合図なので、わたしは気にすることなくお茶を楽しんだ。先輩が頼んだカフェラテが揺れる。
「それに、わたしは、可愛くはないです」
「…そんな事ないわ。なまえは可愛い」
「……違いますよ。それは、贔屓目です。先輩。世間一般からして、わたしのような容姿は、普通です」
そう言って微笑む。この先輩はわたしを可愛いと言う。甘やかそうとする。まるで、王子様ですね。心の中でそう呟く。だけど、わたしはお姫様という柄じゃない。どちらかと言えば、メイドにふさわしいかも。もしくは、従者かな?
自傷気味に笑えば先輩は、少し低い声でわたしに言い放った。
「なまえ。これ以上、私の彼女の侮辱は許さないわよ」
「……どうして、先輩は」
言葉が途切れ途切れになってしまう。揺れる瞳に、先輩はコーヒーカップを手に取って、不敵に微笑んだ。そこには、妖しい妖艶さを潜めて。
「好きよ、なまえ」
そう言って、舌を覗かせた。

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