黒子のバスケ
神様は、いつだって、残酷だね――。
閉鎖的空間の中。わたしは閉じ込められている感覚に、日々襲われている。全てを遮断して、殻の中に、閉じこもる。……そう、現実はいつだって、主人に手厳しい。
理想の中で、いつもやるやり取りはいつだって、幸せ溢れる君との逢瀬。だけど、そんな甘い時間は、全部、嘘なんだ……。
「あれ?まだそこにいたの?」
その言葉と同時に、クレープみたいな生クリームの塊が投げつけられる。服に、嫌な感触と効果音を齎して、わたしは息を呑み。下唇を噛みしめた。相手を捉える事をやめたその両眼が床を見降ろした。頭上からクスクスと遠巻きに笑われる甲高い女の声に、心が折れそうだ。
「いつまでそうしてるつもりなんスか?俺、今から用があんのに」
鬱陶しそうに言われる遠まわしな、拒絶に拳を握りしめて悲鳴をあげる。溜息を最大に溢されて、わたしはそれでも顔を上げて穏やかに微笑んだ。
「ごめん。黄瀬くんがプリント忘れてたから届けに来ただけなの」
差し出すプリントに視線を落とすと、少しは表情が和らいだ彼。
「忘れてたんだ、俺…ごめん。渡してくれてありがとう」
「こちっこそお楽しみの邪魔してごめんね。それじゃ、また明日」
「ありがとう、なまえ。今日も君は、素敵な俺の彼女だったスよ」
笑いそうになっている背後の化粧気の多い女に、殺意が湧く。だけど、一番腹立たしいのは、こんなどうしようもない男に惚れている自分自身にだ。本当に、情けない程馬鹿女だと思う。呆れながら、わたしはすぐさまその廊下から遠ざかった。もう、視界にもいれたくなかった。今から、身体を交合わせる男女のことなのど――。

誰もいなくなった、廊下で一人頬から流れる雫に呆然としながら、黄昏を眺めた。
今日も、世界は何事もなく平和に終わろうとしている。どんなに悲しみに苦しもうと、世界は還りみてはくれない。
「ああ、なんと残酷な世界なのだろうか」
呟くように、囁いた言葉はこの空気に溶けて消えて行く。ああ、わたしも消えてしまいたい。この想いを抱えながら空気のように、消えてなくなってしまいたい。叶わない理想を追い求めて、今日もわたしは流浪の旅人のように、彷徨った。
苦しい、哀しい、息が、出来ない……。
「――なまえ」
「……」
「また、泣いているのか?」
顔を上げるとそこには、青峰が居た。自然と零れ落ちる涙が震える。無意識のうちに訪れていたストリートバスケコートの中心で、君に寄り掛かる。その厚い胸板に額をくっつけて。
「ないてない」
「おもっくそ泣いてんじゃねぇか」
「青峰、汗臭い」
「ああ?」
ぶつくさと、青峰は文句を述べる。それを聴きながら、わたしは強く、強く押しつけた。汗と涙と、安心感を――――。
「…オマエはいつも泣いてんな。泣いてるなら、また、連れてってやろうか?楽しい所」

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