君と僕。

指と指を丸めて望遠鏡を作ると、その先が見えた。色鮮やかな、アセロラの色。
屋上に来るといつものメンバーが騒がしく、音で占領をする。だけど、今日は少しだけ色めかしかった。それは、やっぱり……このストローの啜る音の所為だと思う。



「悠太なに見てるの?」
「…紅葉だよ」



祐希の言葉に視線を彼女から逸らしてパックを手に持つ。祐希は相変わらず雑誌を片手に読みっぱなしだけど、隙間から視線を彼女へ向けた。
千鶴の発言に上から目線でツッコム彼女に、あずきがきゃーきゃー叫んでいる。その容赦のない発言に千鶴は半泣きで暴れまわると要に怒られていた。春はその隣で茉咲と一緒にグラウンドを眺めている。あの輪の中に入ることはせずにぼんやりと眺めている。線引きをしないとどうにも、落ち着かない。



「祐希くん。それ最新刊ですか?」
「そう」
「やっぱりそうですか!じゃあ23ページは読みました?」
「読んだ、読んだ。アレ面白そうだからめちゃくちゃ悩んでる」
「わたしもですよ!一応ネットでも調べてみますが、祐希くん。この情報欲しいですか?」
「欲しい」
「じゃあ、分かり次第メールしますね」
「ん」



楽しそうにゲームの事で会話に花を咲かせる祐希とあずき。隣に気を取られていると右側に温かな空気が流れ込んだ。視線をそちらに向けるとなまえが意外と近くにいた。視線が至近距離で交合うと、先に逸らすのは俺だった。



「……千鶴はどうしたの?」
「ん?ああ、カナくんに任せた。やっぱ調教師の方がいいかなって」
「いつか舞台とか出来そうですね、ソレ」
「日光とかね」



背筋を伸ばして寄りかかる壁。息を吸い込む彼女の隣で俺も吸いこむと、彼女の香りが鼻孔に広がった。寒かった身体が温かいと感じた。



「ユタくんは交ざらんの?」
「いやー、もう。あのテンションに身体が追いつかないから、ね」
「お前はじいさんか」
「趣味は盆栽かな」
「庭持ってないだろ」
「まあ、それ以前に趣味なんてないんだけど…」



何もないのは、無透明なのと同じ事。周りが色とりどりな色彩を彩るっていうのに、俺だけは無色透明みたいで、嫌になる。



「ユタくんの趣味は、優しさ」
「……」
「じゃない?」



そう微笑んだ彼女の笑みに今度は逸らさなかった。



「優しさは、趣味じゃないんじゃない?」
「趣味にルールなんてないからいいんだよ」
「わー、なまえルールって奴?」
「適材適所。有効活用!別に、趣味なんて、案外ちっぽけなもんだよ」



夕日を穏やかな顔して見つめる彼女の横顔に、自然と微笑んだ。ああ、やっぱり今日のストローは一味違う。真白だけ、少しだけ色づいた緋色のストロー。鏡だとしても、それでも、色は色だ。



「あれ?あれ東先生じゃない?」



千鶴の声に彼女が反応して立ち上がり手すりまで行ってしまう。まるで、風のように素早く。手すりに身を乗り出すかのように彼女は、グラウンドを見つめた。その視線の先には、いつも、センセイが独占する。
誰にでも見せない、あの可愛らしい表情で、視線で、見つめる先は、気がつかないうちに手を振る。その一挙一動に彼女が振りまわされながらも、笑う姿を俺は後何度眼にするのだろう。あと、何度、焼きつけるのだろう……。

そう考えると、長いと思った。



「……まあ、慣れっこです」



2012.11.13

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