黒子のバスケ
「 走り出せ!! 」そう、誰かが言った。
いつも、体育館入り口の隅で練習を覗きに来る女の子がいた。その子は、晴れの日も、雨の日も、風の強い日も、ずっと、訪れていた。最初は、気になりはしなかったけど、その子が視界の隅に入るたびに、気になり始めて、今となっては、彼女を探すことが日課になりつつある。練習試合形式での最中。ゴールリングへ向かってボールを放つ際、視界の片隅に、彼女を見つけてオレは、ゴールに入ると共に、今日も平和だと核心した。
「はい、10分休憩!」
カントクの声に従って、ぞろぞろと給水したり、タオルで汗を拭ったりしている。そんな中、小金井の不本意な言葉にオレは動揺した。
「あの子、また来てるね」
「そう言えばそうだな」
「誰か想い人でもいるのかもしんないね〜つっちー」
「そうかもね」
「オレだったりして!」
「お前のその妄想も大概にしろよ、凡人」
「ひゅっ、日向さんっ?あの、何故に、クラッチタイムなんすか……?」
「……気にするな、たまたまだ」
「そんな気まぐれで入るようなスイッチだったの?!」
小金井に罪はないが、自分の感情がコントロール出来なかったのは事実だった。気が立っている訳でもないが、少しだけ、ほんの少しだけ、小金井の発言に亀裂が入っただけだ。
そろりと再び、彼女が居るであろう場所へ視線を上げると、そこには、やっぱり彼女がこちらを見ているのか、わからないけど、まだ、居た。佇む姿に、愛着がわいてくる。なんだかな――。
タオルで乱暴に髪をかきむしった。
「あれ、オマエなんでここに居んだ?」
「火神くん」
補習で遅れてやってきた火神が彼女に声をかけていた。どうやらクラスメイトのような雰囲気だ。思わず、声が聴こえたから振り返り、二人の様子を観察してしまう。その視線に気がついたのは、火神よりも先に、彼女だった。初めて、視線があった気がする。交わった瞳から伝わったのは、綺麗な色の瞳だった。それを遮るように入るのが、空気が読めない火神だった。
「キャプテン、どーしたんスか?」
「あ、いやっ!知り合いだったのか……?」
「ああ、そうっスね。同じクラスなんで」
「そう、か……その。いつも見に来てくれていたから、っ!」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にして、走り去ってしまった。突然の事で対応出来ないオレだったが、何故だろうか。昔読んだ小説に、こんなことが書いてあったのを思い出す。
「 走り出せ。理由なんてどうでもいい、ただ、走れ、走れ、走れ 」
頭に浮かんだフレーズと共に、オレはタオルを投げだして彼女の後を追うように駆けだした。
君を見つけたら、聞きたいことがあるんだ。無我夢中で走れば、目の前に見えた、君の後姿。廊下の隅でうずくまって、隠れている彼女に近寄り、息を整えてから、しゃがみ込んで君を、見つけた。
君を見つけたら、聞きたいことがあるんだ。名前は?趣味は?好きな食べ物は?嫌いなものは?特技は?それから……―――。
「好きだ」

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