黒子のバスケ
夏の思い出。
わたしの彼氏は、バスケ部だ。夏と言えば、大会があるためデートなんてもっての他です。それはとても寂しいですが、それでも、彼の頑張っている姿が見られるのは、これはこれで、いい想い出だったりする。大会に敗れてしまった、わたしの彼、高尾和成は暫く落ち込んで居た相棒のエース様を慰めるのに大変だったみたいで、3週間ほど放置されました。いえいえ、大丈夫です。いつもの事ですから。緑間くんは空気読めませんから、気にしていたらわたしの寛大な心は足りません。笑顔で高尾くんの謝罪を受け取り、それから3週間後。
今日は、とても久しぶりな、高尾くんとのデートです。
いつも以上に気合いを入れて、最近お兄ちゃんに見立ててもらった洋服を着て、待ち合わせの場所に30分も速く着いてしまいました。結構、楽しみにしていたみたいですね、わたし。自分の行動に照れつつも、日傘をさして、待っていた。15分後。高尾くんがやってきて、開口一番。
「はやっ!!何時からいたわけ?!」
「30分前、かな?」
時計を確認しながらしれっと言うと、高尾くんは申し訳なさそうにわたしの手を繋ぎ歩きだした。
「ごめん遅れて!ちょっと喫茶店行こう!涼まないとやばいでしょ」
そう言ってわたしの身体を心配する高尾くんは、とても紳士的で素敵です。惚れ惚れしていると「 ん 」と差し出される片手。
「日傘貸して?俺が持つよ」
そう言って、わたしから日傘の柄を取り上げわたしへ傾くように日傘をさしてくれた。背丈の差があるわたしのために、高尾くんは持ってくれたその行動に、わたしはますます惚れ直しました。
アンティーク風の洒落た喫茶店に入り、涼しいエアコンの効いた室内にわたしの身体は歓喜に震えた。飲み物を注文して二人で向かい合わせに互いの顔を見つめ合う。
「なんか、スゲー久しぶりな感じするんだけど…ちょっと見ない間に、また一段と可愛くなっちゃって」
「わたしは、高尾くんを見るのそんなに久しぶりじゃないよ?」
「俺の褒め言葉は無視なの?久しぶりじゃないって、なんで?」
「試合見に行ったから」
「……見ちゃったんね、アレ」
「はい、見ちゃいました」
微笑むと高尾くんは、がくりと項垂れていた。注文していたものが届き、氷が揺れるアイスティーにガムシロを入れて、くるくると螺旋を描きながら混ぜるわたしに対して、高尾くんはミルクをアイスコーヒーに投入していた。
「どうせなら俺が勝つ試合を見に来てよ〜そしたら、俺超、がんばんのに」
「…でも、かっこよかったよ?あの試合も」
「え?」
「わたしの彼はかっこいいんですって、自慢したいくらい」
「……あ、ソウ……うん……ちょっ、マジでそういうのやめて!俺の心臓殺す気?!」
ストローの先で遊びながら高尾くんは、照れ隠しをするように叫ぶ。わたしは、そんな彼の姿がとても微笑ましくて、心がくすぐったくなる。アイスティーの氷がカランと鳴り、わたしも飲みだす。すると、高尾くんは口笛をふくよな口先で。
「なまえも、可愛いよ。俺の彼女にしとくのが勿体ないくらいに」
「……わたしは、高尾くんの彼女だけがいいな」
ムスっとしてそう言うと、高尾くんが額を抑えてそのまま前髪をかきあげる。
「参った……降参!もう、俺ぜってぇー勝てないって…なまえ強すぎっしょ」
「高尾くん、かわいい」
今度は高尾くんがムスっとする番のようで、テーブルの上に顎を置いてそのまま喋り出す。
「男にかわいい言うなよ、へこむから〜。……なまえ?」
「ん?」
「……ごめんな」
急に謝罪されてその意図がわからずに、返事をせずに首だけを傾げた。すると、高尾くんは苦笑気味に呟く。
「初めての恋人同士の夏休みだったのに、全部部活に使っちまって…なまえに何一つしてやれなくて、思い出すら作ってやれなくて、ほんとっごめん……」
グラスを揺らして、氷を再びカランと鳴らす。
「高尾くん……わたし、思い出が作れなかったことが哀しかったのより、高尾くんがわたしの傍に居てくれなかったことの方が、ずっと寂しかったな……」
「……なまえ」
「我儘でごめんね」
そう言って、誤魔化す様に笑うわたしに高尾くんは首を左右に振ってテーブルから身を乗り出す。乗り出した彼の行動に、瞳を閉じて応じた。触れるだけの柔らかな口付けに離れた瞬間、恥ずかしくて頬を染めてしまう。そんなわたしを見つめて、テーブルの上に置いたわたしの指先を彼の手が重なる。優越感のような表情で彼は。
「かっわいい」
「う……」
わたしをからかった。先程までの仕返しも含まれているのだろうって思ったけど、それより、嬉しさの方が上回ってしまって、複雑な表情をしてしまう。そんなわたしに、高尾くんは頬杖をついて、笑った。
「もう、可愛い顔するの禁止な」
そう言って、わたしたちの夏の思い出が一つだけ出来た、熱い日の出来事だった。

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