黒子のバスケ
誕生日おめでとう。
「青峰」
「ん、なんだ、よ……」
「お誕生日、おめでとうございます」
「ッッッ!!!」
構えたわたしの右手には、彼のために作ったケーキが生クリームたっぷりと上手に仕上がった苺がのり、チョコレートのプレートには「 おめでとう 」と書いてあった。だが、そのケーキは、食べるためにではなく、相手へぶつけるために使用されたのだった。
「そのまま生クリームにまみれて、死ね。絶倫野郎」
「フごぉ!?」
真白になった青峰に向かって、角が当たるように投げたこれも誕生日プレゼントとして持って来た物は、やはり、プレゼントとしてではなく。相手へぶつけるために使用されたのだった。
黍しを返しそのまま廊下を駆けだした。そうせざる終えなかったのは、後ろから生クリームで顔を覆う青峰が鬼神の形相で追いかけてきたからだった。
男子バスケ部、青峰大輝。キセキの世代、エースと称される彼に簡単に追いつかれるとわかっているため、階段や障害物の多い場所ばかりを選びながら走り抜ける。そのため、未だ彼に捕まってはいなかった。
そして、体育館につくと一番目についた黄色頭にしがみついた。
「うわっ?!なまえっち??」
そのままスライドして、彼の腰に腕を回したまま彼の背後に隠れると、黄瀬の目の前で息切れしているエースがいた。
「きせっ、てめぇが匿ってる奴寄越せ!!」
「ぎゃああ!誰ッ!!」
「青峰だぁ!」
生クリームが取れていない青峰を青峰と認識することは、難しいと思う。黄瀬の反応に同意していると、腕を掴まれてしまい。引き寄せられる。
「なまえっ、てめぇ…いいからこっち来い!いつまでも黄瀬にしがみついてんじゃねぇよ!」
悲鳴が出そうになって、必死に黄瀬にしがみつくとわたしが必死に掴んで居る手を抑えるように掴み寸止める黄瀬の手があった。
「嫌がってるなまえっちから手を離して欲しいっス」
「オマエがオレに意見すんな、犬畜生が」
「あんた、女の子から何て言われてるか知ってるんスか?モンスターっスよ」
「……せめて、色黒とかにしろよ」
「その要望は女の子に言ってくださいっス」
言い合う二人に引っ張られていると、静寂を打ち破る鶴の一声が響き渡った。
「騒がしいぞ、お前達」
「主将!」
「げっ、赤司」
緩まった二人の手から赤司がわたしを自身の元へ導き、背後に控えていた紫原にわたしを手放す。お菓子をもぐもぐと食べながらもわたしを背後に隠す紫原の行動にはいつも疑問だが、後ろから覗くように行く末を傍観すると、何故か、正座していた。青峰。
「報告は受けている。お前が全部悪いみたいだな」
「いつ報告受けたんだよ。てか、誰情報だっ」
「テツヤと真太郎だ」
そう言われて、二人がわたしの傍にいつの間にか居て何故か緑間に頭を撫でられ、黒子に引っ張られた腕をいたわられた。
「赤い痕が残ってますね。大丈夫ですか?」
「冷やした方がよさそうなのだよ」
「ゴリゴリ君でいいー?」
「なまえっちのケーキが無残な姿すぎて、オレ泣けてくるっス」
「夜なべして作っていたのにな」
「あ、え、えっと……」
作戦通りに事は進んで居たけど、こんな風にちやほやされるとどうしていいかわからない。戸惑っていると、皆の行為はエスカレートしていく。
肌が白くて綺麗だと言って、黒子はわたしの手の甲にキスを贈り、緑間は髪を梳きながらその一房にキスを贈り、黄瀬は膝の甲にしゃがみこみ、キスを贈り、紫原は生クリームがついていると言って、頬にキスを贈り、赤司は額にキスを贈った。って、何で皆にキス贈られているのさ!?こんなの台本にはなかったはずなのにっ。
目眩にも似た感覚に陥り、頭は爆発寸前だった。その時、一際色黒な腕がわたしの肩を掴み強引に引き寄せてその、生クリームだらけの顔がわたしを襲った。
視界に埋まる、真白な色が全てを理解させてくれる。
「こいつに、触るな」
「……青峰……」
見上げた顔は、真剣そのもので少しだけときめいてしまう。だけど、やっぱり。
「大輝。興奮するな。これは、サプライズだ」
「さぷらいず?」
「やっぱり忘れていたんですね、青峰君」
「とんだ、単細胞なのだよ」
「ケーキ独り占めズルすぎだけど、これはオレが食べてもいい奴だよね?」
「ああ!紫っちまだ駄目っスよ、ロウソク立ててから」
紫原の図体で隠れていた背後から見えたのは、テーブルとケーキとオードブル。そして、垂れ幕が合って、そこには、誕生日おめでとうって書いてあった。
それに呆然として見つめている青峰にまだ、ついている生クリームを指ですくって舐めとった。
「誕生日、おめでとう青峰」
そう笑っていうと、青峰が嬉しそうに笑いながら生クリームをわたしになすりつけるように抱きしめてきた。
(これって…)
(リストバンド。試合中もずっと傍にいるからね)
(((( うらめしい ))))

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