黒子のバスケ
スキ、とはどんなカタチ?
「てんごくー!」
喫茶店の中に入れば、彼女は万歳をして店員の眼も気にせずに叫んでいた。普段省エネを公言している彼女らしからず目立ちっぷり。今日はエコやめたんか?後ろで笑っているとくるりと振り返り白のキャミが揺れる。セミロングの髪が流れる。それに見惚れる俺を余所に、彼女は俺を急かすのだ。
「ほら、高尾。行くよ」
「はぁーい」
語尾にハートマークでも付けたら、うざがられた。彼女としてその態度はどうなのよ?
問い掛けたい疑問は喉まで出かかって、すぐに消えてしまった。
実の所、俺と彼女には温度差がある。俺は彼女が好きで告白したけど、彼女から俺を「好き」だという言葉は受け取ったことがない。まあ、いいか。って感じで付き合っているとか、被害妄想を続けながら、それでも彼女が自分の隣に居てくれるなら、愛のない恋人でもいいか。とずるずる引きづりながら続けている。
店員に案内された壁際の席に座り、もちろん、ソファーは彼女。椅子には俺が座り向かい合う。ここは、喫茶店って言ったけど、実のところケーキバイキングでもある。
だから、頼む物は決まっていて案内された直後にドリンクバーとケーキ食べ放題をセレクトしておいた。重そうな鞄を置いたら、彼女は立ち上がった。
「取りに行ってくる!」
「おー、いってらー」
いつもより気合いの入った彼女は、ない袖をまくるように女の子が群がる中へと赴いた。
その間に彼女の好きなアイスティーを注ぎに行く。ついでに俺もコーラを。沢山のアイスティーの中から選んだ彼女好みのものをセレクトして席に今一度つき、今のうちに携帯の確認を行っている。パタリ、と画面を閉じれば調度彼女が帰って来た。
二つの皿を持って。
「え!?そんなに食うの?!」
「当たり前でしょ。一度取った物を戻すわけないでしょうが」
関心しながら、彼女の持って来た皿の中身を見つめる。だけど、重そうなケーキは一つも見当たらなかった。ゼリーとかババロアとか何ともカロリーの低い物ばかり。気にしてるのか?と想いながら様子を窺うと、彼女の視線はアイスティーに向かっていた。
「なんで、これ、選んだの?」
「え。ダメだった?!」
「いや……その逆」
「ぎゃく?」
「うん。ありがと…」
小さく呟いたのち、ガムシロを入れてストローでかき混ぜながら照れ隠しのように彼女は紅茶を吸い続けた。そんな姿を見ると、やっぱ――。
「好きだな……」
「っ!?いきなり、なにいってんの、あんた…」
「だって、好きだと思っちゃうんだもん」
「だからって、場所ぐらいかんがえっ」
「はいよ。なまえ、好きだよ」
そう言うと、頬を少しだけ染めて「 ばか 」って言われた。そして、スプーンでジュレを食べる。そんななまえを頬杖つきながら、眺めていると彼女は何を思ってか、急に爆弾を投下してきた。
「高尾は、わたしがあんたをスキじゃなくてもいいの?」
「ぶふぅ――!!!?と、突然ナニを言いだしてんだよ?!」
「いや、疑問に思って?」
「なんで、なまえも疑問系なのよ」
「だって、わたしが言わないのがいけないかなって思うと、元凶はわたしかって。結論ついちゃったからさ。ごめん」
「いきなり謝んな!!」
「うん。ごめん」
真顔でこういうこと言われると流石に、結構クる。彼女も気にしてるのか?咳払いをして身なりを整えてから、姿勢を正して彼女を真っ直ぐ視界に捉えた。
「言って欲しい。好きなら聞きたいって男なら誰でも思うっしょ。でもさ、俺は。俺がなまえのこと好きすぎるから、お前が傍にいてくれるならそれでいいやって思っちまってさ…だから、さ。大丈夫じゃね?」
「なんで、疑問系なのよ」
「そうだよな」
へらり、と笑う俺は結構、彼女の所為でヘタレ化してきているように感じる。どっかの犬じゃないけど、こんな自分も嫌ではない。
すると、スプーンを俺の口に近付けて小首を傾げた彼女の唇から、甘い言葉が囁かれた。
「高尾。スキだよ」
「へ……?」
「他の子が思う様な恋愛染みた感情はないけど。でも、傍に居て安心するんだ。高尾の隣に居ると、わたしは、わたしらしくいられるの。それって、スキ、だと思うんだよね、どうかな?」
「……アリ、じゃねぇの?」
そう言って、照れくさかったけど誤魔化すみたいに差し出されたスプーンに喰らいついた。
(おお!これうまっ!)
(高尾も食べられる甘さ控えめなやつ持って来たから、食べて?)
(なまえ――!好きっ!)

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