黒子のバスケ

※捏造&本誌ネタバレ存在なので閲覧には注意してください。


溶けだした、アイス。


夏の屋上は……危険すぎる。

全広範囲で照り返す太陽の餌食になる屋上で、唯一の日陰の場所である貯水タンクの裏は、死角になっていて、これが結構見つかりにくいと評判。ここで何やら如何わしいことや、サボりの常習犯など内密に行っているようだ。
別に、興味がないわけではないけれど…屋上に来てしまったわたしは自然と日陰を探し求めて貯水タンクにもたれかかりながら座っていると、頬にひんやりとした冷たい感触がして、いつのまにか自分が寝ていた事に気がついたが、もっと驚いたのは自分の目の前に、実渕先輩がいたことだった。不敵に微笑みながら、頬をさらさらと滑るように撫でられる。



「ちょ、ちょっと、実渕先輩っ!」
「どうしたのよ、そんなに慌てて。なまえちゃん?」
「どうしたのって……」



子供にやさしく尋ねる保父さんのように、小首を傾げて眼線を合わせてくる。その端整な顔が至近距離に感じるたびに、息が熱のように上がっていき視線を逸らし胸を押し殺すので精一杯だった。



「相変わらず、かわいいわね。その反応」
「っ、かわいくなんて…」
「かわいい。かわいいわよ、なまえちゃん?思わず食べちゃいたいくらいに」
「ッ――」



唇に吐息を感じて、瞳を瞑るとクスリと笑った声がした。



「なまえ?」
「あら、征ちゃん。遅かったわね」



貯水タンクから覗くように現れたのは、同じクラスの赤司くんだった。赤司くんの登場により、先輩は何事もなかったかのようにわたしとは一定の距離を置いた。それにほっとした。今頃一人で百面相でもしそうだ、先程の行為を思い出しその雑念を振り払いながら、赤司くんの視線を受け止める。



「どうしたの、赤司くん?」
「調度散歩がてらにアイスを買ってきたから、君もどう?」
「有難く貰おうかな」



コンクリートから立ち上がり、埃を払うようにスカートをはたきながら、手すりまで歩み、赤司くんからゴリゴリくんアイスを受け取った。火照った身体と脳内には調度いい。雑念が未だ堂々巡りしたまま、アイスを一口かじる。口内に広がったサイダーの爽やかな味が、先輩の感触を忘れさせてくれたような気がした。



(もうちょっとで落とせたのに…残念ね)
(何か、言いました?)
(なにも言ってないわよ、征ちゃんってほんとっ上手いわね)


2012.08.02

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