黒子のバスケ

彼女はいい子です。


「青峰君!」
「しつけーな、さつき!」



今日も奮闘劇を目の前で繰り広げられる。幼馴染の桃井さつきと青峰大輝。夫婦じゃねーの?そう思いながら、こんな二人を眺めつつ桜井くんがつくってくれたかき氷を頬張った。



「うまへー」
「まだありますよ」
「ありがと」
「あの二人、またやってますね」
「だねー」



縁側で穏やかに孫たちの元気ぷりを話す老夫婦のように桜井くんと喋っていると後ろから今吉先輩の「 ワシにもかき氷ちゃんちょうだい 」という言葉に「 スイマセン! 」と急いで手動で氷を削る桜井くんに笑う。
スプーンを咥えながら、尚もこの炎天下の中攻防戦を繰り返す元気な若人たちに関心するわ。そんなわたしの隣に今度は今吉先輩がやってきた。



「ホンマ堪忍な。なまえ。お前にも手伝おうてもろて」
「別に構いませんよ、かき氷くれるなら」
「現金な子やな。…スマンな。ホンマはお前にこないな場面見せたくはないんやけど」
「構いませんって。別にこれぐらいで傷つきませんから」



そう笑って言えば、今吉先輩の眼鏡が少しずれた。その隙間から覗く瞳で暴かれるように見つめられる。



「痛まんのか、」
「それりゃ、痛いですよ?サイボーグじゃないですからね」


シャリシャリ、と氷を食べる音を奏でながら視線は桃井と青峰に注がれる。そんなわたしにメロン味のかき氷を一口食べる今吉先輩は鼻で笑った。



「難儀な子やな」
「はは」



笑いながらその言葉の真意を受け止める。いや、確かに泣きたいくらい嫌ですよ。この光景とか状況とか。でも、そんな事気にしてたら、心がいくつあっても足りないくらいなんですよねー。口の中で一瞬にして溶けてしまう氷に、切なさを飲みこんだ。
こうやって、わたしの痛い悲鳴は溶けて消えしまう。まさに、わたしはかき氷。



「桜井くーん、もう一杯!」
「スイマセン!今作ります。何味がいいですか?」
「レモン」
「恋する乙女の味かいな、なら、ワシのメロン所望する?」
「間接キスなしなら」
「笑顔でホンマきっつい事言うな」



茶化しに笑いながら、今吉先輩から差し出されたスプーンいっぱいのメロン味を頬張った。
そのままスプーンを咥えながら強奪すると、返して、と言われるその姿に勝ち誇った笑みを浮かべる。そうすると桜井くんがわたしのために作ってくれた二杯目のかき氷を青峰が奪おうとするのを目撃し、そばに転がっていたボールを投げた。



「そりゃ、わたしんだっ!!」
「ってぇ!なまえ!オマエほんとっ食い意地はってるよな」
「あんたに言われたくないわ」



頭部に直撃したらしく矛先がわたしへ向く。わたしのレモンは桃井がしっかりと保護してくれて、わたしに手渡してくれる。



「はい、なまえちゃん」
「ありがとう、桃井も食べる?」
「いいの?」
「桃井となら間接キスばっちこい」
「ワシの時と態度違うやないか」
「そりゃ、今吉先輩は変態ですから」
「今のお前さんには言われたくないんやけど」



わたしの食べていたスプーンで桃井に食べさせてあげる。可愛らしい桃井は、本当は憎き恋敵だけれども、青峰の矢印は彼女に向いている以上、わたしはそれでもいいかという境地に到達したのだ。まあ、一回ぐらいの恋くらい。この巨乳女にくれてやら!って感じで投げてよこした。



(スイマセン、ボク。好きですよなまえさんの事)
(はよ、気づいてあげなや)


2012.07.24

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