黒子のバスケ

こんな馬鹿な女初めてみた。


無意味なことはしない。為せるのなら為すが、それがわかっていて無謀な事などしない主義だ。オレの知っている現実思考主義者は、そう言った。それが口癖のように。まあ、別にそれはそれで構わない思考だとオレはそれを納得していたし、肯定していた。

けれど、彼女は、本当は………。



「か、買ってきたのだよ」
「まちたれー」



コンビニ袋を手渡せば、全力疾走した所為で汗だくだった。そんな事も知らないかのように彼女の思考は、コンビニ袋、ただ一点のみだった。中からカサカサと音をたてて取りだしたのは、なんて物は無い。パピコだった。



「お前、自分で買うのだよ!スーパーから近いだろ、家!」
「ふぁって、ふぇんぽふあいんよぉー」
「取りあえず口から出せ」



何を言っているのかすら、わからん。そう言えば彼女は、口に咥えたパピコを取り出しオレを睨んだ。



「だって、面倒なんだよ」
「わかってるのだよ、なまえの言いたい事など!だから繰り返すな!」
「言わせたん、自分じゃん」



中学からの付き合いの彼女、数えると四年目だ。別に示し合わせた訳でもないのに、彼女はオレと同じ学校に入学していた。しかも同じクラスだという。何の呪いかと思った。昔から赤司には「 お似合いだな、オマエ達は 」そう言われ続けていたが、オレは断じてこんな女とお似合いなわけがない。寧ろ、同学年の女性より、年下の方を好んだのは総てこいつが元凶だと言っても過言ではないくらい、オレは好かなかった。

何故ならば、こいつの言動全て―――偽りだらけだからだ。

流れるような汗が垂れてくるのに気がつきハンカチを取りだそうとしたら「 ん 」と差し出されたタオル。それを受け取り汗を拭いた。相変わらずこちらに一切用がないと振り返らない彼女。隣に座れば、半分に分けたパピコを寄越された。



「御褒美」
「オレが買ってきたやつなのだよ。偉そうに言うな」
「じゃあ、返せ」
「やらん」



少しだけ溶けだした、コーヒー味。よく好んで食べる味らしい。口を切り、押しだせば。容器から出て来るその氷菓子を口内に含んだ。

何で、走ったのか。何で全力疾走したのか。オレ自身にもわからない。別に汗などかく必要もなかったし、焦る必要もなかった。オレが行って買ってくるような内容でも、命令でも出されてはいなかった。強制もなかった。

ふと、盗み見るように見つめた彼女の横顔はどこか切なさを帯びた無表情だった。その横顔を照らす様に夕日が差し込み、幻想的な緋色で彼女を染め上げる。
どうして、彼女がオレと同じ学校を選んだのか。お前は、赤司が好きなのではないのか?
そう尋ねたことがある。素直に聞いたオレの性格は高尾にすれば、愚の骨頂だと言われた。だが、気になった。そうしたら、あの女は―――。



「 私では、赤司の隣にふさわしくない 」



そう答えた。好きとか嫌いとか恋情において重要な感情を差し置いて、体面を気にしたのか?すぐさまそんな事が脳裏によぎった。だが、口にする前にその考えは全て生唾に変わって飲みこまれた。



「 お前は、馬鹿な女だな 」



出て来た言葉にこれに変更された。そう言ったら、こいつは爆笑しながら「 そうだな 」と同意した。
好き、という自分の気持ちを蔑ろにして、赤司の事を優先させたのだ。赤司のことを考えて、赤司にとって何が一番いいのか、自分はどうするべきなのか。
暫くの間、そんな事を思い出しながら彼女を見つめていたら視線に気がついたのかこちらへ振り返り。



「気持ち悪い視線でこっち見るな」
「お前という女は、まったくどうしようもないな」
「なんだ、突然。人を罵倒するほど人間出来ないだろ、ロリコン」
「黙れなまえ、なまえ黙れ」



減らず口が減らない、偽りの仮面を纏って。彼女は今日も泣いていた。



(なまえちゃんを癒せるのは、やっぱオレでしょ!)
(お前じゃ役不足だバカ尾)

2012.07.24

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