黒子のバスケ
※帝光中設定
偶然なんて思えば、必然なんだよ。
とある映画を見に行った時、とある主人公の男の言葉に無性に腹が立ったことがあった。それは「 俺は、お前の事嫌いじゃないよ 」告白して来た女の子にそう告げて、他の女の所へ行った男の言葉。正直人類の男を抹殺したくなるほど、怒りを覚えた。
でも、そう言われた女の子の方が辛いのだと考えるとやっぱり負に落ちない。気持ちがままならないまま、わたしは中学生という身分でそんな、階段の一歩手前でそんなことを思っていた。
「みょうじさん」
「……あ、黒子くん。なにかな?」
隣の席の黒子くん。このクラスになって三回席替えをやったけれど、三回とも彼と隣の席になった偶然の運命を辿った人物。
プリントを配られてそれを無意識に後ろへ流れ作業のように配りぼけっとしていたら、声をかけられてそちらへ視線を送る。
「つかぬ事を聴きますが、黄瀬君の事が好きなんですか?」
「っ、あ、え、はあ?なんか言い張りました?」
「黄瀬君の事す「もう一度言うなやぁ!」
「聞き返したのはあなたじゃないですか」
「それでも言わないでよ。デリカシーなさすぎだよ」
汗を掻きながら何故、このような事を聴かれているのか不思議でしょうがなかった。いや、ほんとうに、何故?
顔を覗くように見つめると、いつもの表情の彼がそこにいる。しかもこっちずっと見つめてくるし。
顔が真っ赤になりながら、首を一度だけ縦に振った。
「…そうだったんですか」
「あ、いえ、その、小学校の頃、一緒だったんで……その、まあ、あれ、ですよ。てか、何で君にベラベラ語ろうとしてるんだ、わたし」
テンパリすぎて、もう、訳わからん。手をあちこち上下に動かしながら、黒子くんと喋っていると、昼休みになったのか、お昼ごはんを買いに行く生徒達が立ち上がり、お弁当組は机をくっつけたり、立ち上がって移動し始める。そんな中、わたしもお弁当を取るという行為を行いながら、逃げようと企んだ中腰で突然、彼の声が聴こえた。
「あ、黒子っち!一緒にお昼食べようっス!…あれ、なまえ」
「ッ!!!?」
名前で呼ばれて心臓が飛び跳ねた。小学校のあの頃以来すぎてもう、頭パンクしそう。てか、心肺停止しそう。でも、下の名前で呼ばれた、少し、嬉しい……。頬を緩ませて嬉しさに喜びながら席を立とうとすると、黒子くんがわたしの腕を掴んだ。
「みょうじさんもご一緒しませんか?」
「え、いや!その、わたしはー」
「いいですよね、黄瀬君」
「え、いや!その、オレは別に…いいっスよ」
問われた黄瀬くんはわたしに視線を移してから、笑みを浮かべた。でも、きっと、嫌な顔が出来ない事を知っていたから。
「いいよ。わたし、友達が待ってるから。それに邪魔したら悪いし」
「あ」
「誘ってくれてありがとう。また、ね」
そう言って呼び止める声が上がる前に教室のドアで待ってくれていた友人達の輪の中に入り、移動した。
小学校の頃、黄瀬くんに告白された小6の夏祭り。浴衣を着たわたしは、花火が上がると共に彼に告白された。でも、当時のわたしは恋とか、付き合うとかそういう事があまり理解出来なくて、咄嗟に断ってしまった。でも、断った後で、彼が好きかもしれないと気がついて、それからは………ずっと、馬鹿な片想いをしている。
あの劇中の男の子と一緒の台詞を述べたわたしは、きっと世界中の彼を好きだと思いを馳せる少女達に殺されても文句は言えないようなことを言ったのだなって思い出した。
だから、きっと、腹が立ったのだ。そして、女の子を黄瀬くんに例えて悲しいのかと考えてしまったのだ。
ほんとうに、馬鹿なわたし。
掃除の時間友達の眼を盗んで泣いていた中庭で、黒子くんがちりとりを持ってしゃがみ込むとハンカチを差し出された。
「黄瀬君、あの後へこんでましたよ。あなたに断られた事が相当ショックだったんですね」
「え?ショックって、なんで……?」
「 はあ 」と溜息をついて立ち上がった黒子くんは、ハンカチを握っているわたしに向かって一歩近づいて、接近する彼の顔に恥ずかしくなって目を瞑ると同時に額にキスをされた。驚いて目を開けたら視界に黒子くんで一杯になって、慌てて逃げようと後退する足を引きとめるように腕を掴まれる。
「わからないんですか?黄瀬君は、フラれてからもずっと、あなたの事が好きだったんですよ」
「え……うそっ……だって、わたし、美人じゃないし」
「…黄瀬君の眼に狂いはないですよ」
「なんで」
「現に、僕もあなたの事が好きだからです」
そう言って涙の跡を拭くように彼の指が動く。突然の告白に頭がキャリーオーバーしてしまっていた。
「まあ、でも……。黄瀬君になまえさんの気持ちなんて言いませんよ?一応、ライバルですから、ね」
「はあ、え、えええええ!!!」
「お手柔らかにお願いします、ね」
それは、とっても退路を断たれた旅人のようで。迷宮のダンジョンの中に放り込まれて、出口の前で魔王にあってしまった勇者のように思えて来た。
間違っても、わたしから、黄瀬くんに想いを伝える事は出来なくなった。
そう、これは、どちらが先にわたしの考えを肯定するか否定するか、奪うか護るかの攻防戦が今、幕を上げた。
(え?席替えの件ですか?別に細工なんてしてませんよ?)
(しいていうなら、交換、してもらっただけです)

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