黒子のバスケ
※若干提造



もういいよ?


騒がしい休み時間。友人の恋の話が飛び交う中で周りに合わせて笑っていると急に担任に呼ばれてしまう。



「みょうじ!ちょっといいか?」
「はいっ」



呼ばれて面倒だなって思いながら立ち上がると友人達がふざけながら「なに、呼び出し?」「なんかやったべ!」と口々に冗談を言って笑う。それに対して適当に返して担任の元へ行くと。



「今日、お前日直だったよな?」
「明日ですけど、わたし…」
「あ、そうだっけ?」
「そうですよ」
「じゃあ、今日の日直誰だっけか?」
「加藤さんと―」
「ああ!加藤か!おーい、加藤!」



人の言葉を遮って催促を急ぐ担任の態度に呆れて、口を閉ざした。だいたいとばっちりじゃないか。呼ばれぞんじゃんか。
愚痴を心の中で零しながら佇んでいるとすぐに、呼ばれた加藤さんがやってくる。



「なんですか?」
「お前今日日直だったよな?悪いんだが日誌は副担任の森本先生に渡してくれないか?今日はこれから席を外さないといけないんでな」



一気に言ったよ、この人。横目で哀れに思った。そろそろわたしは戻るかと思って小さな声で「 失礼しまーす 」と言って背を向けた瞬間。わたしは加藤さんの顔と名前を覚えた。



「すみませんけど、先生。今日は委員会の会議があってホームルーム終わったらすぐに向かわないと間に合わないんですよ」



申し訳なさそうな顔をして背中に刺すような視線を感じるのは気の所為だと思いたい。加藤さん。



「みょうじさん、部活は?」



重たい首を動かして愛想笑いをする。



「……ありません」
「じゃあ、みょうじ頼む」



ほれ、きたっ!やっぱきた!
解りやすい展開に呆れ半分恨み半分。表面上笑顔を作りながら、心の中で「 加藤 」と怒鳴っていた。



「ででもー加藤さんの他にも日直居ますよね?」



そう言うと先生と加藤さんは互いに瞳を丸くさせて顔を見合わせる。



「「え、いたっけ?」」

「おいおい」



男女二人組で出席番号順に組ませた張本人まで忘れてどうするんだよ。しかも加藤さんなんて一週間もペア組んでやってる最中でしょうが。何をとぼけてるんだよ。いや、とぼけてるならまだ可愛いが二人して存在否定ってどうなのよ。出席毎日とってんでしょう。名前順で整列してんでしょう。
頭を抱えたい衝動のままあくまで、社交的に微笑みを浮かべる。



「黒子くんですよ。お二人とも」
「……今日来てた?」
「今もあなたの斜め後ろに居ますよ」



彼女が恐る恐る振り返るとホラー映画みたいな驚き方をしていた。しかも日直という声が聴こえて読書の中断をして席からこちらまで移動してきたのであろう。結構近くに居た。加藤さんの後ろに。



「日直と言う言葉が聴こえたので来たんですけど。話の概要はだいたい掴めました。森本先生にお渡しすればいいんですよね?」
「ああ、黒子やってくれるか?」
「ええ。大丈夫です」
「そうか。なら頼むわ、黒子」
「はい」
「じゃあ、お前等戻っていいぞ」



おい、このボンクラ教師。おめぇもリアクションくらいとれよ。普通に会話したぞ。まだ加藤さんの方が可愛いな。
加藤さんは黒子くんに謝りながらそれでも急ぎ足で戻っていく。その姿を眺めながら、あ、結局わたしは日誌の手伝いしたほうがいいんですかね。とか振りだしに戻る。悩みながら戻ろうとしたら呼び止められた。静かに。



「みょうじさん」
「…はい?」



振り返ると黒子くんが無表情で目の前に居た。影が薄いってか気配が読めないな。とぼんやりそんな事を思っていた。



「よく覚えてましたね、日直の事」
「…え。普通じゃない?」



彼のごく普通の問いかけに、ごく普通の切り返し方をしたら、何だか微笑まれた。



「そうですか。なら、ありがとうございます、と伝えておきます」
「は、はあ…。いえ、お構いなく?」



疑問詞のままわたしは今度こそ友人が待っている輪の中へ戻って行った。



「あの、日直手伝ってもらってもいいですか?」
「えっ。……あ、はい」



2012.04.23

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