うたのプリンス様
※トリップしてきた主人公がキャラと良い感じになるけどお別れしてしまった後日の彼らの想い。
俺の心の一部が叫んだ。
君が居なくなっても太陽は昇って沈んで、月が出てまた太陽が昇るんだね。
初めて知った。喪失感があっても絶対時間だけは相変わらず進むんだってこと。
ああ、最低な世界だ。
「あ、トキヤー!見てみて!!!」
「なんですか、音也。騒々しい」
「このギターかっこよくない?!」
「それ先日も言ってましたね」
「だってかっこいいもん」
音楽系の雑誌を広げてトキヤにうざがられても絡んで雑誌を無理矢理見せる。これがいつもの俺だよね?
雑誌を片手に鼻歌を歌いながら、自分の割り切られたソファーへ行き、座る。パラパラと意味もなくめくる雑誌のページ数。
本当は読む気なんてなかった。別に意味なんてない。いつもの自分らしく演じてみただけだ。
だけど、あんま上手く行かないな……。
意味を失った雑誌をテーブルの上に置いて、ギターを持ち、ヘッドホンを耳にかける。
曲を聴きながら刻み始める音。音楽とはとても言えない、拙い音が室内に響き渡る。そんな音にトキヤは何も言わない。
言わずに黙って聞いている。可笑しな光景だな……。
彼女と作った音楽が耳から流れ始める。楽しそうな音楽が聞こえてくるから、ああ、やっぱり彼女が居ないとダメだな。
こんなにも音に溢れている日常なのに、君が居ないだけでそれはただの音でしかない。
「…音、か」
ぼやいた言葉に鼻で笑って再び刻み始めるギターの無意味な音。だけど。それは次のイントロで止んでしまった。
これは……俺の知ってる曲じゃない。
確か彼女の好きだった失恋ソング。だけど…ピアノの音と彼女の歌声がヘッドホンから溢れた。
「……ッ」
懐かしい彼女の声。もう君のその声すら俺の耳にとって懐かしいという言葉になってしまう。
何故か、無性に、唇を噛んで押し止める。怒涛の感情。
ヘッドホンから清んだ彼女の歌声と悲しい失恋の歌詞が、俺の心を透くってくれる。
「 君と歩いたあの道を、わたしは、いつまでも、忘れないよ 」
「……っ、なまえ。俺も、忘れないよ」
大粒の涙を流しながら、呟くと、トキヤは小さく安堵の息を吐きながら、振り返って、俺に向かってタオルを投げた。
「私は、飲み物でも買ってきますが、何がいいですか?」
立ち上がり、財布をポケットに入れてドアへと向かって行くトキヤの背に、鼻水をすすりながら。
「午後ティーストレート」
「わかりました」
そう言って出て行くトキヤを横目で見送りながら、ドアが閉まると同時に、嗚咽が漏れた。
午後ティーのストレートは彼女が一番好きだった飲み物だった。俺は紅茶よりも炭酸の方が好きだったけど、今、それよりも、もっと多くの物を彼女と共有したいと、思った。
涙を流しながらも、ギターを握る手は緩むことなく、抱え直して一緒になって、引き語りをして歌い始める。彼女の声と俺の声が繋がって、隣を見れば、彼女が、並んで、傍で、笑って、歌っているかのように思えた。
拙い俺の歌声だけど、それでも……彼女と一緒に歌ったその曲が、一番、俺の中でのベストエンドのよう思えた。
(まったく…聞くに堪えないですね)
(でも、いいんじゃないかな。一十木らしくて)
(ええ、本当に…彼らしい、歌、ですよ)
あとがき
これは書きかけで置いてあったのを、今失恋ソング聞きながら書きました(笑)
裏のあんけで音也に投票してくださった女神がいたので、って、全然裏じゃないし!甘々でもないし!ただの切ない恋でした。
2012.06.08
ALICE+