うたのプリンス様
※トリップしてきた主人公がキャラと良い感じになるけどお別れしてしまった後日の彼らの想い。
君以上の良き理解者など望んでいないんだよ。
「 レン 」
ああ。君の声が聴こえる。そう思って目を覚ますとそこには、君の居ない現実が訪れた。
起きて、歯を磨いて、顔を洗って、制服に袖を通して、食堂へ向かう。染みついた習慣が今日も俺を動かす。
部屋を一歩でも出れば沢山のレディたちに囲まれて、一人一人に言葉を返していく。なんて意味のない言葉なんだろうか。
無意味な言葉だと認識した途端。口から彼女達への嘘吐きが消えた。
「どうかなさったんですか?」
「レンさま?」
「……いや。もうすぐ中間テストだと思ってね。レディたちも練習しておいで」
「そうですわね」
「頑張りますので、聴いててくださいねレンさま」
「ああ、もちろんだよ」
甘く囁くけど、そこには足りない気がした。微笑みを浮かべて手を振るが、彼女達が消え去った瞬間。俺から表情が消える。
「がんばる…」
その言葉はよく、彼女が口にしていた言葉だった気がする。瞳を閉じて、彼女を思い出す。すると、簡単に彼女が現れた。
「 レン。練習するよ 」
そう言って手を伸ばして俺を引き上げる彼女に、無意識にその手を追いかけた。だけど、瞳を開ければそれは虚無。
掴むのは宙。誰も居ない屋上で、君との思い出ばかりが溢れて、俺は無性にこの場から動けなかった。
今でも君がいるようで。俺の目の前から消えてしまった君がそこに立って俺に微笑みかけてくるようで。
どうしても、この場から離れる事はできなかった。
ポケットに入っているMDプレイヤー。彼女は最新機具よりこっちを好んだ所為か、俺も持ち歩くようになった。イヤホンを無造作に耳にかけ、スイッチをいれる。装填されているカセットは君が奏でた俺のための曲だった。彼女が消える前に渡されたもの。
その中には何十曲も入っていて、それらは全てこれからの俺のために贈られたものだった。
その曲達を、毎日聞きながら歌詞を書くけれど…ごめん。とてもバラードが書けない。全てが君への想いの丈になってしまうから、どれも失恋ソングになってしまうよ。かっこ悪いね。
「ふっ…」
鼻で笑いながら確認すると、もうすぐ最後一曲になる。その最後の曲はいつも聴けずにいた。もしそれを聴いてしまったら、君との繋がりを絶ってしまうような気がして、どうしても聴けずにいた。だけど、今日は操作する指を止めて耳を澄ました。
次の曲へ入る音が聴こえた。数字がカウントされる中、無音が続く。暫く経っても音が聴こえないから首を傾げて、指を動かした瞬間。聴こえた………彼女の声が。
『 わー!始まってるし…。結構無駄にしちゃったかもしんないな、こりゃ 』
「っ!……なまえ?」
『 う、うっん!えー元気ですか?ご飯食べてますか?ネクタイ結べてる?あと、寝る時服着てる?風邪引いてない?―っと、なんかオカンみたいな質問ばっかしちゃってんな 』
懐かしいあの笑い声。
『 うんとー。これを聴いてるってことは、多分わたしはもう、君の傍にいないってことだろうと思います。うん、怒っていいよ。罵ってもいいし、恨んでもいいよ。だっていきなり現れて、いきなり消えるって勝手じゃん?まだ試験だって残ってるのに…ごめん。ごめんなさい 』
想像できる君の姿。きっと正座でもして謝っているのだろう。彼女はいつもふざけているようで、実は真面目な子だった。
文句ばかり言う癖に、お人好しで。
なんだろう、自然と笑みを浮かべることが出来る。
『 だから、曲を沢山書いたよ。楽譜もしっかり保存出来るようにファイリングした。この中から好きなの選んでいい歌詞つけて歌ってあげてね。あ。ただし、変な言葉つけたらぶっ殺す 』
「はははっ」
自然と溢れる言葉達。ああ、なんだろう。この言葉遊びは…。
それからも彼女は世間話をするように語りかけて来る。その度に会話をしているように返答をする。そろそろ終盤に差し掛かった時だ。
『 じゃあ、頑張ってね。レンがデビューできることをいつも応援してるからね 』
「ありがとう。でも君には届かないんじゃないかな」
『 …レン。………ごめんね 』
「?」
『 ――ッ 』
急に、泣き声が聴こえて来た。鼻をすする音、唇をかむ音。それらを聴いて、泣くのを我慢している君が容易に想像できた。
『 好き 』
「っ」
息を呑む喉の音が響いた。
『 ごめん……ッ、でも、すき、だよ。すき、すき、……好きっ 』
「っ………」
抱きしめたい衝動にかられ、歯を食いしばる。
思い出が走馬灯のように浮かんでは消えていく。彼女の言葉がぽつぽつと聴こえて来る。ああ、彼女が泣く声は初めて聴いたな。
『 レン。あなたの周りには沢山の人がいて、ちゃんとあなたの事を解ってくれる人も居るんだから、自身持って。あなたは一人じゃないから…。独りになんてさせてあげないから……。はい!ぶっちゃけ終了!これ聴き終わったら忘れてね、わたしのこと。バイバイ 』
「なまえっ!!」
手を伸ばした。だけどそこには当たり前みたいに誰も居ない。だけど伸ばさずにはいられなかった。
「君は…勝手な女だな。俺の気持ちも知らないで」
「神宮寺」
聖川が傍に来る。イヤホンからは終わりを告げる音が奏でられる。イヤホンをつけたまま空を見上げた。
「……忘れない」
忘れてなんてやるか。思い通りにさせてやるかよ、誰が。
そんな俺の呟きに奴は追究もせずに、一言だけ囁いた。
「戻るか」
「…お前のそういうところ、尊敬するよ」
立ち上がり、振り返ると奴と並んで歩き始める。
「迎えに来るなんて珍しいじゃないか、お前が」
「お前を迎えに行けと、でなければ食堂出入り禁止にするとすごまれてな」
「誰にだよ」
「一ノ瀬と来栖だ」
「……ふっ」
「なんだ、気色悪い」
「黙れ」
彼女の言ったことはあながち間違えていなかったことに、笑えた。
それでも、俺には君以上の良き理解者など望んでいないんだよ。レディ……。
あとがき
マジ友人のレン熱に拍手喝采。絵師さんのおかげでだんだん普通になっていくレンたま。でもね、いまいちこの子の喋り方わからんべ。トキヤのがなんかきっかけになってこんなんやってみた。すんません、レンじゃなくて。去年書いていたネタでした。
2012.06.08
ALICE+