お蔵2017/08/07
gntmお蔵入
ヒロイン名前【桃田ろこ】
タイトル【ゆれるストロベリー】
神様に見放された。
別に神様なんて信じてないし無宗教だけど、今はどこかでいるんじゃないかな、って思う。
神様に見放された!

「どゆこと」

夢も見ずに眠っていたのか、最初に暗闇が見えて、それはただ目をつぶっているからなのだと瞬時に理解をし、目を開けた。
もう、目を開けない方がよかったかもしれない。つーか死んでよかったかもしれない。
冷たい風がふけばたちまち体が震え、ぎゅっと自分を自分で抱きしめる。
服がない。
靴もない。
おまけに鞄もなければ、
下着だってつけてない。
すっぽんぽんだった。
私は気がつけば、すっぽんぽんでごみ捨て場にいた。
急いで捨ててあったダンボールを手繰り寄せ、とりあえず体を隠す。
思い出せ。思い出すのだ。
私は世紀の大失恋の後、全財産をはたく勢いで大衆酒場でヤケ酒をしていた。そして確かそのままホストクラブへ、その次には……

「ハプニングバーに、行ったぞ」

それからの記憶がない。ハプニングバーに行ってハプニングにでも遭ったというのか。服と靴がないということは、いたしたということだろうか。
わからない。何も記憶が無い。あるのは私が吐いたであろう吐瀉物と、なぜか抱えてたブラックニッカの大きなボトルだ。
しかもここがどこかもわからない。見覚えもないし、裏路地のごみ捨て場から大通りにすっぽんで出られる勇気もない。
終わった。
私の人生はここで終わった。
社会的に死んだ。
携帯もなく、お金もなく、ダンボールがあったのがせめてもの救いだろうか。ていうかなぜこのすっぽんの状態で私は放置されていたのだろうか。ハプニングどころか大きなアクシデントでも起こしてしまったに違いない。
とっくの昔に顔は青ざめていただろうが、さらに血の気の引く感覚がした。二日酔いのせいだろうか。視界もぐにゃんぐにゃんになっている。
だれか、だれか私に気がついて。
どうか優しいおばちゃんに見つかりたい。せめて女の人に見つかりたい。
だれか、だれかだれか!!
人生でこんなに祈ったのは大学受験の頃くらいだろうか。しかし神様は、やはり私を見放していたのだ。

「……こんなとこでなにやってんの」

私を一番最初に見つけたのは、ゴミの山からもこもことモグラのように出てきた、いちごパンツ一丁の銀髪の男。
それが私たちの出会い。
とてつもなくヘンテコな出会いだった。

すっぽんぽんの女といちごのトランクス一丁の男。
はたから見たらどっちがやばい奴だろう。パンツ1枚穿いてる分、彼の方がマシだろうか。完全にマシだろう。
お互いがお互いをじっと見ていた。
よくよく見ると男は案外悪くない顔をしているけど、なんとなく死んだ目をしていた。

「あなたこそ、ここで何してるんですか」

先ほどの問に今更の返答。恐らくこの状況を分かっていないのはお互い様だ。私の問に男は頭をぼりぼりとかきながら「酒飲んでて、それからは覚えてない…」と答えた。
私と全く一緒である。

「ダンボールで隠してるってことはあんたも服がないのか」
「服どころか下着もないですよ」
「えっ!!」

ギラ!と鋭い目が私を貫く。や、やだこいつ襲う気じゃないだろうな。咄嗟に身構えると男は慌てた様子でごほん、と咳払いをした。

「名前は?」
「桃田ろこ……です」
「俺は坂田銀時。銀さんって呼んでね」

ガシャガシャと音を立てながらゴミ山から這い出てきた彼、坂田銀時はパンツ一丁のまま大通りへと去っていった。
え、あいつ。私を見捨てやがったのか。
ヤレないなら必要ないとでも言うのか。
まるで地獄に叩き落とされたような気分になり、ぽろぽろと涙が流れる。
なんで私がこんな目にあわなきゃいけないんだ。なにもかもうまくいかない。
このまま誰にも見つからなかったらどうしよう。むしろ変なやつに見つかって犯されたり殺されたりするかもしれない。
私の人生ってなんなんだ!
大声をあげることもできないまま、静かに声を殺しながら泣く。
そうして、どれほどの時間が経っただろうか。
さすがに裸は寒すぎて、ダンボールを手繰り寄せるも足りなくて、何か捨てられた布や服はないのかとゴミを体を隠せる範囲で探している所だった。

「ほら」

突然、聞こえた声は、もうすでに懐かしい声。

「坂田さん……」
「そんな格好でいられると銀さんの銀さんがもう限界だ」

それ着ろ。と渡されたのはいつの間にか着物を身にまとっていた坂田さんと同じ柄の着物だった。

「ださい服…」
「なにお前。いらねーなら裸で家帰れ」
「うそ、ごめん。ありがとう。坂田さん」
「銀さんでいいって」

笑った顔は、なかなかに好印象。なんだろう、陽性転移というやつだろうか。少しときめいてしまった自分を蔑んだ。私はつい昨日、失恋をしてしまったというのに。
着物をありがたく頂戴し、さっと着て帯をしめる。さすが男物で大きかったけれど、これでなんとか外に出ても痴女だと騒がれはしないだろう。

「坂田さんは歌舞伎町に住んでるの?」
「ああ。万事屋やってんだ」

万事屋。何でも屋さんということだろうか。いちごパンツでゴミ置き場に捨てられてるくらいだからろくな稼ぎをしてるとも思えないけど。

「じ、じゃあさ、お仕事、頼めないかな?」

恐る恐る聞いてみた。「なに?」と鼻くそをほじりながら首を傾げる坂田さんに些か不安を覚えるも、これも何かの縁だろう。頼んでみようじゃないか。

「今から一緒に私の家に行かない?」

両手をあわせてダメ?と問うと、坂田さんは突然鼻血を出した。絶対に鼻のほじりすぎである。彼の着物ではあるが彼の鼻血だからいいだろうと勝手な判断で服で血を拭い、急いで鼻をつまむ。
鼻血まみれの顔で坂田さんはふがふがしながら、「いいよ」と私の頼みを聞き入れてくれた。
でもその前に止血だ。


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