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「このメモを渡せば分かる。こっちは入店許可証だ」
「…あーい」

せっかくの休日だと言うのに、私はいつものようにネイガウスさんにパシられていた。
祓魔屋という祓魔師専用のお店がここ正十字学園にはある。
普通は祓魔師しか入られない店なんだけど私はここに来てからというもの、入店許可証をいただいてそこに買い物(パシリ)に行くことは少なくはなかった。
店の女将さんはとってもいい人。
でも最近、母親を亡くしてしまったらしい。
私と同じくらいの娘さんがいるようだけど、私はまだ会ったことがない。

「こんにちはー!」
「あらちとこちゃん。いらっしゃい」
「これ許可証。こっちは買うもののメモです」
「いつも偉いわね」
「いえいえ」

そうでしょう。なんて言えるわけもなく、私は否定をしながらあははと笑った。
女将の娘さんは引っ込み思案で人前に出れず、学校にも行けずに少し、家に引きこもりがちらしい。
それに、おばあさんが亡くなってからというもののおばあさんが大事にしていた庭にかじりつきっぱなしだとか。
そのこともあって、女将さんと娘さんは今、ケンカ中らしい。

「早く娘さんと仲直りできるといいですね」
「ああ、ありがとう」

おばさんは寂しそうに笑う。
そりゃあ、大事な家族を心配しているのに、それが擦れ違ってしまうことは悲しいことだろう。
女将さんはよく分からないものがいっぱい入った袋を台に置いてくれた。
お金を払い、重たいそれを私は唸りながら抱えると女将さんにクスクスと笑われてしまった。
私も苦笑しながら、お礼を言って店を出た。

「あれ、小川さん…」
「小川!?なんでここいんの!?」
「お、おー。奥村先生に奥村くん」

そしたら奥村ツインズに会った。
奇遇だね、なんて他愛もない話をしたいところなのかもしれないけど(実際私は別に二人と話すことはない)生憎私は絶賛パシリ中で重たい荷物を抱えているため立ち話なんてとてもじゃないけどできないから早々に立ち去ることにした。
ていうか、初っ端の授業のことが頭にこびりついてて奥村双子にあまり良い印象を持てていない。
正確には、奥村燐には、だけど。

「またネイガウス先生ですか」
「イエス。だから早く行かなきゃ。じゃあね、奥村先生、奥村くん」
「気をつけてくださいね」
「ま、またなー」

二人と別れてネイガウスさんのところへ急いだ。
早くしないとあの人怒るんだもん。

「お。魍魎たちよ、手伝ってくれるのかい」

必死になっていたら二十匹くらいの魍魎たちが紙袋の底のところを持ち上げてくれた。
なんて可愛いんだ。
たまごボーロあげ始めてからというもの、魍魎たちがすごく懐いてくれるのでちょっと嬉しい。
手騎士気分。
魍魎使いに、俺はなる。