12

「なんでそう思うんだ」

ネイガウスさんは、優しい声色で私に尋ねた。
私は世界に捨てられた。
そんなことは考える私は、すこし頭がおかしいのだろうか。
でも、思ってしまう。
私が二度と帰ることのない者として召喚されたってことは、別に、私はあの世界にはてんで必要ない存在だったんだって。

「下らんことを考えるな。早く塾に行ってこい」
「…帰ってきても、いい?」
「使い魔を減らすつもりはない」

ああ、好き。
私はたまらずネイガウスさんに抱き着くと、ネイガウスさんはたまにしてくれるみたいに私の頭を撫でてくれた。
心地いい。
私は大層、ファザコンのようだ。
少し元気が出て、ネイガウスさんの部屋を後にする。
部屋の外で待機していた魍魎が心配そうに私に駆け寄ってきた。
大丈夫だよ。そう言うと、魍魎たちが縋るように私に引っ付いてきたので、可愛くてそれでまた、元気が出た。

「遅れましたー」
「小川さん来ましたね。連絡は受けています。今は教科書の19ページをやっているので、席について」
「ああ、はーい。……。」

まあ泣きじゃくっていたのもあって、塾には遅刻した。
奥村先生の言う通り、席につこうとのんびり視線をやると、

「あっ…あ、は、はじめまして!」

私の席に、知らない女の子が座っていた。
つまり、奥村くんの、隣に、だ。
条件反射ではじめまして。と吃るように言った私は、今度は奥村くんに視線をやった。
その時、彼は初めて自分の隣が私の席だったということを思い出したのか、しまった。というような、分かりやすい顔をした。
…ああ、うん、まあ、別に、いいんだけど、ね。
見たところ二人が親しげであることは分かるし、別に席なんてどこでもいい。
でも、
腹は立つ。
断りもなしに、ていうか今だに黙りこくってる奥村くんに。
まあ隣にいるのは私よりあんな可愛い子の方がいいだろうよ。
でも、あそこは元々、私の席だったのだ。
厭味ったらしく奥村くんに挨拶すれば慌てた様子で挨拶が返ってきた。
それをスルーするように私は私の席を通り過ぎ、1番後ろの廊下側、左端の席についた。
二人用を、一人で満喫だ。
まあ奥村くんには苦手意識も持っていたことだし、ちょうどいい。
私は鞄から教科書とか筆記用具を取り出すと、授業を聞くふりをしながら何もない壁をボーッと眺めていた。

そういや私、ここでの友達は、いないんだよなあ。