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「小川さん」
「はっ はい…」

対・悪魔薬学の次は実技だった。
体操服…というか私の場合はただのジャージなんだけど、それに着替えて授業の場所まで行く最中に、私は声をかけられた。
突然のことで吃ってしまったら、私に声をかけてきた人、勝呂くんは罰が悪そうな顔をして申し訳なさそうに小さく謝った。

「あ、ううん。ちょっとびっくりしただけだから」

それで、どうしたの?と問えば勝呂くんは言葉を探すようにあー、とかうー、とか唸りはじめた。
言いにくいことなんだろうか。
不思議に思い、ちらっと勝呂くんの後ろにいる志摩くんや三輪くんに視線で説明を促してみるものの、二人とも苦笑いを浮かべるだけで、さらに疑問が増す。

「あの、言いにくいなら…」
「いや、かまん。あー、その、やな。小川さん。な、なんで、問6の解答、わかったん」

問6
小テストのことだろうか。
そうだとしても、問6ってどんな問題だっただろうか。
ポカンとしていると、なんのことか分かっていないのを悟られてしまったらしく、勝呂くんは恥ずかしそうに「やっぱええわ」とそっぽを向いた。
あ、なんか見た目に反して可愛いななんて思いながら、私は言葉を探す。

「えーと、もしかして応用の?」
「…そや。あれは習てなかった…というよりも応用の応用に近い。俺かて予習くらいしとるけど、あれは解けんかった。でも小川さんは解けとったから、何でやろ、思て」

確かに、一際難しい問題があった気がする。習ったことを使えば解けるけど、頭をフル回転させなきゃいけないような感じの…
まあ私は、まるで地獄のような、死にそうなくらい勉強をしていたから出来たようなもんなんだけど。

「解説、見た?」
「見た」
「わかった?」

勝呂くんはコクリと頷いた。
え、ならすごいんじゃないの。
あんなの応用とはいえ、習っとかないと解けないような問題だったもん。
私は何回もネイガウスさんに教えてもらったというのに。
解説見ただけで分かるなんて、なんか悔しいんだけど。

「すごいよ勝呂くん。私はあの応用は教えてもらったから解けただけだし、すごい苦労したもん。私は解説見ただけじゃ、分からなかったなあ」

あははと、苦笑まじりに頭をかく。
確かに悔しいけど、決して厭味なわけじゃない。
まあ、秀才とはそんなもんだ。
ちょっと妬けるけど、それでも勝呂くんがすごいことには変わらない。
今度は勝呂くんに勉強教えてもらうべきだろうか。
絶対ネイガウスさんの教え方より、危険じゃない。

「っ!あ、ありが、とう…」

それに、照れて顔が真っ赤になってるあたり、彼はやっぱり可愛い部類に入るんじゃないだろうか。
そんな彼に顔が緩んでしまう。
ギャップだよね、萌えるよね。
努力家みたいだし、やっぱ人を見かけで判断すると分かることも気付かずに終わっちゃうんだろうな。

「小川さん、笑うと可愛えなあ」
「え?」

そして気が付いたら志摩くんが勝呂くんより一歩前に出ていた。
まあすぐに軟派な人なんだと解釈し、「ははは、上手だね」なんて適当に返事をしておく。
多分この人は女の子はみんな可愛く見えちゃうタイプなんだと思う。

「じゃあ、次の体育も頑張ろうね」

そうヘラリと笑って、私は一足先に競技場へ向かうことにした。
そういや、勝呂くんとまともに喋ったのはこれが初めてだ。
そう思うと少し嬉しくて、今日のあんまり得意じゃない体育が、なんか上手くいくような気がした。