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体育・実技
今日は悪魔の動きを観察しながら体をならす。つまり戦闘になったときのための基礎実技を行うことになった。
それにしても、

「うおォおおおおお…!!」
「ぬウぐ、おおおお!!!」

あの二人の対抗心は、どうにかならないものか。
いつの間にか悪魔そっちのけで競争してる二人に乾いた笑いが出た。
なに、あれ。

「ふたりとも速いなあ」
「ほんま、坊もけっこう速いのにやるなあ。あの子」
「うん、でも勝呂くんてほんと何でも出来るんだね。ほんとすごい」

ほーっと感嘆していると、志摩くんにまじまじと顔を見られた。
え、なに、なんなの。
不審に思うものの、それを悟られぬよう顔色は変えずに首を傾げる。

「いや、坊のこと、やけに褒めはるんやなー思て」
「…ああ。だってすごくない?」
「好きなんか思いましたわ」
「はは、そんなんじゃないけど」

ふーん、と些か怪しそうに見てきたけど、殴る蹴るなんかの喧嘩を始めた奥村くんと勝呂くんを見て志摩くんは三輪くんと一緒にその喧嘩を止めに競技場へと降りていった。
年頃、とかいうやつだよね。
そういう話、私も好きだもんよ。
なんとか二人を宥めることができたらしく、志摩くんたちは上に戻ってきた。だけど先生と勝呂くんはまだお話し中のようだ。
私は授業再開まで暇だななんて思いながら、壁にもたれ掛かりずるずると座り込んだ。
割とすぐに先生と勝呂くんは戻ってきたけど、先生に予定が入ったらしく先生は子猫ちゃんとかなんとか叫びながら授業放棄した。

「えー…」

先生がそんなんでいいのか。
なんて思っていたら勝呂くんが同じようなことを言いはじめた。
…いや、同じようなことではない。
彼の方がなんていうか、その、
すごく強い。
また二人が喧嘩しそうだったから私はトイレにでも行くことにした。
喧嘩は見るのも好きじゃない。
巻き込まれるかもしれないから。

「あれ、奥村先生?」
「!小川さん…」

そうしたら出入口に奥村先生がいて驚いたけど、どうやら代理らしく私は大した疑問も持たないまま先生が来たならトイレに行くのは止そうと踵を返した。
でもなんで代理なら潜んでるみたいにいたんだろう。
あんまり深く考えたらいけないのかもしれない。
奥村先生には奥村先生のやり方が。
そんな風に思っておこう。

「ブッ プハハハハハハ!ちょ…サタン倒すとか!」

ひっくり返れば笑い声。
この声は、神木さん?
競技場を覗いてみると下には勝呂くんが降りていて、思わず目を見開いた。
あれ、危ないんじゃないの…?

『ゲボオオオ!!!』

案の定、蝦蟇は勝呂くんに襲い掛かった。
危ない。
そう感じる暇もなかったと思う。
奥村くんがすぐに駆け付けて、勝呂くんを庇い、代わりに食いつかれてしまった。

「放せ!蝦蟇…!!」

思わず叫んだ。
条件反射とか、そう言うべきかもしれない。
私が言ったからか、奥村くんの強い意思が効いたのか、蝦蟇は怖ず怖ずと奥村くんを放す。
まあ、私の影響はないと思うけど。
奥村くんや勝呂くんの無事にみんなからは安堵の息がこぼれた。
もちろん、私からも。
本当、寿命縮まるかと思った。

「いいか?よーく聞け!サタンを倒すのはこの俺だ!!!!てめーはすっこんでろ!」

サタンて、悪魔の王様だったっけ。
なんかでっかいこと言うんだなあと下の光景を眺めながら、バクバクと動く心臓を鎮めていった。


そのとき、蝦蟇たちがずっと私のことを見ていた、なんて、私が知る由もない。