18

ここんとこ、よく杜山さんが神木さんのパシリっ子になっているところをよく見る。

「どうにかなんねーかな…」
「そうだねえ」

そしてここんとこ、何故か奥村くんが私に絡むようになってきた。
杜山さんが神木さんに付きっ切りだからだろうか。いやでも、奥村くんは勝呂くんや三輪くんや志摩くんとも仲が良いし。
それとも、悩みの種が女の子だからだろうか。私といる時はよく杜山さんの心配をしている。
でも私、杜山さんのことよく知らないから役に立てないよ。

「でも、嬉しそうだよね。杜山さん」
「あ?」
「嬉しそう。じゃない?」
「…だけどよ」

神木さんは一体杜山さんに何を言ったのか、いつだって杜山さんは嬉しそうに神木さんの言いなりになっている。その度に朴さんがオロオロしてるから、ある意味1番の被害者なのは朴さんなのかも。
私には客観的にしかとらえることはできないけど、それでも、杜山さんはきっとオトモダチの助けになってるからって、だからあんなに嬉しそうな顔してるんじゃないかな。
何もないところに送っていた視線を奥村くんに戻し、詰まっていた奥村の言葉を待つ。
言いたいことが纏まったのか、奥村くんはまた私にむけて口を開いた。

「俺も、友達って今までいたことねーから、よく分かんねえけど、友達って、そういうもんなのか?ちとこも、そうだったのか?」

そうだったのかって、何が。
そんなことはとてもじゃないけど言えなくて、何も答えずに目をふせる。
友達の定義なんて、哲学的で私にはわかんないよ。
友達、か。
もう会えないあいつらは、今ごろ何してんだろう。
私のことは忘れてないだろうか。
またしょうもない話で盛り上がってんのかな。
それとも、向こうでは時間なんて、経ってなかったりして。
目を閉じて、懐かしい記憶を仕舞う。
忘れたいけど、決して失いたくはない記憶たちだ。
でも本当に、忘れちゃいたいよ。

「まあ、そんな奴もいたかな」

私の友達ではなかったけどね。と言うと、奥村くんは悩ましげにふーんと返事した。
ふーんて。これまた微妙な返事だ。
彼は私に何を求めているんだろう。
私がいつも期待する言葉を言ってくれるとでも、思ってるんだろうか。

「まあ、明日から合宿だし、近いうちに気が付くと思うよ。でも気が付いても変わらない人だっているから、その時は手を掴んであげれば?」
「手を…?」
「心配なんでしょ?杜山さんが」
「…。うん」

素直だよなあ。
そんな奥村くんに、思わず顔が綻ぶ。
色々面倒なところもあるけど、こういうのを見ると微笑ましいというか、自分の青い時代が恋しくなるというか。いやあ自分もまだまだ青いんだけどね。
うん、私にはネイガウスさんがいてくれれば毎日占い1位だから。
ファザコンでいい。大好きだもの。

「じゃ、私は帰る。明日から合宿頑張ろーねー」
「おお!じゃあな!」

互いに手を振って、私は教室の外へと出た。
わらわらと寄ってくる魍魎たちにただいまと挨拶しながら私は自室へと帰る。
あれ、そういえばたまごボーロきれてんじゃね?
あー、今日は買い物か。
ついでに晩御飯の材料も買うか。
ネイガウスさん晩御飯何がいいかな。
そんなことを考えながらゆっくり歩を進める。
ていうかネイガウスさんで思い出したんだけど、そういえば私もパシリじゃん。
ふー杜山さんおそろだね。あれ違う?
明日から合宿だし帰ったらソッコー祓魔屋に買い出し行かされそう。

「…でも晩御飯もないし」

でもカギあったら祓魔屋なんてすぐだし、まあ大丈夫か。
最近パシリに慣れてきて重たいものもちょちょいのちょいだからな。

「そういえば新発売で抹茶味のボーロあったなあ。お前たち、ほしい?」

尋ねると肯定するように魍魎たちが沸き上がる。
今日はじゃあ、抹茶も買うか。


そんなこんなで、明日から合宿です。