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とりあえず、ネイガウスさんに会ったら、一発、お見舞いしてやろうと思います。
会えたらだけどね。
三輪くんは全部詠唱し終わり、勝呂くんも最後の章に入った。
屍はもうすぐそこまで辿り付いてて、もうこれは、いつまで時間を稼げるのかが勝負になっていた。

「杜山さん!」

杜山さんの体力も、もう限界らしく、気を失ってしまった。
同時に木は消え、屍と私たちの間にもう壁はない。

「のやろオ…!」

志摩くんが頑張ってくれるけど、やっぱり私には何もできることがなくて、
なくて…、
本当にないのか?
私の長所を活かした、それでいて私にできること。
私の長所、私の長所は、…手騎士の気質が、他人より少はあるってところ。
召喚の授業の時もそうだし、うん、魍魎だって立派な悪魔だ。
魍魎たちが一番喜ぶ言葉。
それは…

「ぼ…、ボーロ!」
「小川さん!?」

案の定、屍がこちらを向く。
好都合だと私はみんなとは反対方向へと移動した。
もう悪魔の気をひく言葉なんて。

「ボーロの時間ですよ!」

これしかないでしょ。
どんどん私に近付いてくる屍に、私はどんどんみんなとは逆の方へ。
屍が私に近付くほど、私は屍から遠ざかる。

「小川さん危ない!!」
「ッ!!」

パンと気味の悪い音をたてて、屍ははじけた。おいおい、ボーロが待ちきれなくなっちゃったのかな。
また体液を被ってしまった私は立っているせいもあるだろうし、屍のグロさのせいもあるだろうし、視界がぐにゃりと歪む。
やばいかも、そう思った時、

「"ふるえ、ゆらゆらとふるえ… 靈の祓!!!!"」
『ギィィイイイ!!』

神木さんが援護をしてくれた。
吹っ切れたのか。
心の中で感謝しながら、それでも屍の意識が神木さんや勝呂くんへ戻らないように私は再びボーロで屍をおびき寄せる。
ポケットに入っていた魍魎たちにあげるはずだったそれを見せれば屍はグモモモと嬉しそうに鳴き喚く。
ほんと、ボーロの力は素晴らしいね。
バカなことを考えながら、あと少し。と時間を稼ぐ。
そしたら、

「!」
「電気が…!!」

明かりがついた。
奥村くんがつけてくれたのかも。
屍が怯んだ隙に私はとりあえず自分の安全を確保する。
なんだかんだ自分は大切だ。

「"…その録すところの書を載するに…耐えざらん!!!!"」

ちょうどそんな時に、勝呂くんは詠唱を終えた。
屍が黒いもやのようになって消える。
ああ、終わったんだ。
ガクリと膝をつき、ぜーぜーと豪快に深呼吸をする。
めっちゃくちゃ、怖かった…!

「小川さん!小川さん大丈夫!?」
「怪我ないか!?」
「あははー。へーき、へーき」
「アホ!顔青いわ!」

そんなこと言われても、怖かったもんは仕方ない。
今だに手はガタガタ震えてるし腰なんて抜けちゃって立てない。

「ありがとう、小川さん」

それでも言われたお礼に、私は何もしてないのにと少し申し訳なくなってしまった(実際餌で釣っただけ)
奥村くんも無事元気そうに部屋に戻ってきたし、私は安心でまさになんだかすごく眠たいんだ状態になってしまっていた。

今日は本当に、よく眠れそうだ。
夢に出そうで、怖いけどね。

さて、ネイガウスさんに何言ってやろうかな