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なんと、この強化合宿は候補生認定試験を兼ねたものだったらしく、さっきまでのアレは、抜き打ち試験のようなものだったらしい。

「質悪すぎ」
「フェレス卿の指示だ」
「それでも、死ぬかと思った」

ネイガウスさんに手当てをしてもらいながら、私は悪態をついていた。
体液をきれいに拭ってもらい、点滴を打つ。
具合は、まあ、大分ましにはなったけど今度はまたイライラがぶり返してきた。
本当何考えてるの。

「じゃあ昨日のも、試験だったの?」
「…。」
「だから何も言わなかったの?」
「…。」

まただんまりだ。
本当に試験なら、もう終わったんだから言ってくれてもいいじゃん。
それとも、やっぱり他に理由があるから?

「"青い夜"って…なんなの…?」

ネイガウスさんは答えない。
その代わり、ぐしゃり、と頭を撫でているつもりなのか、ネイガウスさんに髪の毛を崩された。
気にするなと、そう言いたいんだと思う。
ああもう、この人は、こうすれば私が何も言わないって思ってんのかな。

「におうんだよ」
「何がだ?」
「うさん臭いの」
「……私がか?」

ネイガウスさんは不服そうな顔をしてるけど知らない。
私は何も言わないことでそれを肯定した。
ネイガウスさん以外に誰がいるっていうんだ。…メフィストさんがいたよ。

「ネイガウスさんが何も言ってくれないんなら、今日は私、ずっとネイガウスさんに付き纏うからね」

真顔できっぱりとそう言う。
表があれば裏がある。
試験って、メフィストさんたちはそう言ってるけど、なんだか私は腑に落ちない。
なんかおかしいよ。
ネイガウスさんが言葉をはぐらかす時点で、全然おかしい。

「残念。それはダメですよ」
「メフィストさん!」

その時、いつの間にか私の後ろに立っていたメフィストさんがニッコリと笑った。
なんで!?と噛み付くように言うとメフィストさんはさぞかし愉快そうに右手の人差し指をピンと立てた。

「点滴終わったら私の所まで来てください」
「はあああ?」

なんで、そんなまた。
露骨に嫌な顔をすると、お話があるんですよと語尾に星マークつきそうな感じで腹立つ言い方をされた。しかもウインク付き。

「それは、残念だったな」
「お前らグルか。グルだな」
「来ないと迎えに行きますよ。部屋まで」
「行くから来ないでください」

そこまでして、私が要らないっていうんなら、もういいよ。受け入れるしかないじゃん。
ああ、でも、本当腹立つ。
みんなの治療を終えた先生たちは続々と部屋から出ていって、それはネイガウスさんやメフィストさんも例外ではなく、医務室には生徒だけとなった。

「くっそお――!!!!まさか…抜き打ち試験だったなんてな…」
「すっかり騙されたな!!」
「…少しは可能性考えとくべきやったねえ」

先生がいなくなったからか、みんなは一斉にお喋りを始めた。
奥村くんみたいに叫びたい気持ちが、私には分かりすぎるくらい分かる。

「杜山さんもすごかったけど、小川さんにも感謝せなね!」
「なんだよ、ちとこなにしたの?」

突然話を振られて、え?と聞き返す。
感謝、か。
されるほどのことでもなかったと思うんだけど、私はそんなに大したことしてない。
苦笑しながら否定をすると、勝呂くんがため息をついた。

「謙遜や。詠唱で倒すいうんを教えてくれたんは小川さんやし、小川さんがおびき寄せてくれんかったら俺が襲われとったはずや」
「詠唱阻止よりも、悪魔にとっては大事なんやろうか。その、ボーロって」
「いや、小川さんがすごいんやって!見たことあるやろ、魍魎の群れ…」

みんながああ、確かにと頷いた。
なんだこれ羞恥プレイってやつか。
褒め大会ですか優勝賞品はボーロしかないですよ。

「みんなボーロが好きなだけだよ」
「そうか?なんかちとこが召喚しようとしてたときの、あれなんか俺までちとこに寄りたくなったんだけど」
「ブッ!それは奥村くんだけやわ!」
「え?そうなの?」

おかしいなーと奥村くんは首を捻る。
うん私もそれは奥村くんだけだと思うな。と素直に言うと奥村くんは拗ねたように口を尖らせた。

「私の使い魔も、欲しそうにしてたわよ」
「え?」
「ニーちゃんも…」
「ええ?」

予想外の神木さんと杜山さんの言葉にたじろいでしまう。
すごい食べ物だったんだねたまごボーロって。
ただの離乳食じゃなかったんだね。

「俺も呼んだら来るやろうか〜」

ほわほわ笑う志摩くんに来るんじゃない?と笑顔で答えておく。
このあと実際に試してみて、結局何も起こらずに志摩くんが落ち込んでしまったのは、また別のお話。
あ、メフィストさん邸いかなきゃ