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翌日
私たち、訓練生は無事に全員、候補生に昇格することができた。
メフィストさんがお祝いにもんじゃをご馳走してくれるみたいで、みんな焼肉がいいとかすき焼きがいいとか言ってたけど何だかんだ、嬉しそうにしてた。
もちろん私も。もんじゃ好きだよ。
ネイガウスさんの処分は停職処分に留まったみたいで、不謹慎にも喜んでしまい、ネイガウスさんに呆れられた。
でもそのくらいで済んですごく嬉しかった。だってそれならネイガウスさんには毎日会えるし。
ネイガウスさんの授業はなくなったけど勉強は教えてもらえるし。怖いんだけどね。
会いたかったらすぐに会える。
私にはそれが、すごく嬉しかった。
それで、私たちは今、メフィストさんお勧めの店でもんじゃを食べてるわけだけど、

「奥村くん、ここいい?」

美味しそうにもんじゃを頬張る奥村くんの隣を指でちょいちょいと指す。
まあ、奥村くんとは昨日の今日なわけで、奥村くんはすごくびっくりしたような、気まずそうな顔をして私を見た。
しかも何も言わないもんだから、私は苦笑を浮かべて勝手に隣へ座ることにした。
いやあ、私だって本当はすごく気まずいんだよ。気まずいんだけど、私、多分奥村くんを傷付けたような気がして。謝らなきゃって思って。だからこうして勇気を振り絞ったんだけど、
こんなあからさまな反応されたら、結構キツい。
でも、私のせいなんだけど。

「あのー、昨日は、ごめん、ね」

途切れなから、ただ単語を並べただけのような言い方になってしまい、ちょっと自分が情けなくなった。
いつからろくに謝罪もできないような人間になっちゃったんだろう私。

「べ、つに、いいよ」

奥村くんは私から顔を逸らして、そう言った。
そうは言ったんだけど、でも全然、

「そんな顔してない…」

そんな落ち込んだような顔されたら、ますます私の良心ってやつが攻撃される。
あーあ、へこみそう。
そう、小さくため息をついた。

「私ね、家族ともう会えないんだ」
「…!」

俯いてた、奥村くんの顔がパッと上がって私を向いた。
言ってはないけど、言葉をつけるなら「え?まじで?」が妥当なところだと思う。

「なんで…」
「あー、そこら辺は奥村先生とかメフィストさんに聞いてよ。それでね、私、ネイガウスさんにお世話になっててね、それで、あの、奥村くんが、ネイガウスさんに刀を向けてたのが、正直、許せなかった」
「…、」
「でも分かってるんだ。奥村くんは悪くないって。でもなんか、頭ん中いっぱいいっぱいになっちゃって…」

頭を掻きながら、あはは、と、下手くそに笑った。
今思い出しただけでも、嫌だ。泣きたい気持ちになる。
あのまま、奥村くんがネイガウスさんの首を斬るようなんてことは、可能性的にはあったんだろうか。

「許せないよ…」
「…、」
「ネイガウスさんの大事なもの、全部奪っていったサタンが許せない」

ぴくりと、奥村くんの指が動いた。
そうだ。奥村くんはサタンの息子だとか、ネイガウスさんが言ってた。
なんとなく、奥村くんの気持ちを悟って、私は奥村くんの尖んがった耳をぐい、と引っ張ってみる。
刀を抜いていなくても、少しだけ尖んがってる、耳。

「っな、」
「落胤なんか関係ない。私はサタンが許せない。だから、」

私はサタンを倒すって野望を抱くことにしようと思う。
そう、挑戦的に笑った。
いつか、奥村くんが言っていた目的。勝呂くんもそうだったけ。
そしたら奥村くんは、目を丸くして、口を半開きにして、なんとも間抜けな顔をして私を見た。
ちょっと面白かったから、ぷっと笑ってしまった。
本当、わかりやすいよなあ。

「同じだね、奥村くん」
「お前…」

今だにポカンとしている奥村くんに、私は右手をさっと差し出した。
私が、奥村くんにしたかったことだ。

「仲直り、しよう」

そう言えば、奥村くんは最初こそ躊躇ったけど、照れ臭そうに笑って、私の手を握った。

「あー!奥村くんなに小川さんと仲よさ気にしとんの!?」
「ああ!?べ、べつに…っ」
「うわ、志摩くんラムネ倒れたよ」
「ああああ!」