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うだるような暑さの中、私たち候補生は『メッフィーランド』に任務をしに来ていた。

「皆さん、初任務どうしたはりました?」

集合場所の入口で、のんびりとした口調で志摩くんが言った。
話に聞くところみんな雑用のような仕事ばかりだったらしく、特に勝呂くんは、不満そうな顔をしていた。

「小川さんは何やったん?」
「え…」

話を聞くには聞いていたけど会話には参加していなかった私は、突然話を振られてちょっとビックリしながら、先日にした"初任務"のことを思い起こす。

「……観光、案内?」
「はあ?なんやそれ。全然祓魔師関係ないやん」

だよね。
もうあははと笑うしかない。
関係はないけど、骨は折れた。
日本を満喫したいんですとアマイモンさんに北から南まで連れ回されてもうクタクタどころじゃなかったもん。
いくら鍵があるとはいえ、あれはすっげぇ疲れたわ。

「でも、なんか疲れた顔してはりますねえ」
「三輪くん分かってくれる?ちょー大変だったよ」

お疲れ様ですー。と可愛い笑顔を向けられて大分癒された。
いいね三輪くんは癒しキャラだね。杜山さんもそんな感じ。
クラスには一人か二人くらいいてほしい存在だよね。

「…てか女子遅ない?」

志摩くんの言葉にそういえば、とみんなで顔を上げた。
そうしたらそんなちょうどいいタイミングで、「遅れました…!!」とパタパタ走りながら杜山さんと神木さんがやってきた。
その、なんていうか、杜山さんのその格好にみんなの目が点になる。

「しえみ!?どうした?キモノは?」
「着物は任務に不向きだからって…理事長さんに支給していただいたの…。神木さんと朴さんに着方を教わっていて遅れました…!」

「へ…変じゃないかな?」と照れたように言う杜山さんに、ぜんっぜん変じゃない。むっちゃ可愛いっすよ杜山さん。と思わず言いたくなってしまった。
そう、ずっと、いつ何時、体育の時間でだって着物を着ていた杜山さんが、正十字学園の制服にその身を包んでいたのだ。
もう正直めちゃめちゃ可愛い。ギャップだよねつーか胸でか。
神木さんも可愛いし、あれ、なんだか自分が惨めだぞ?気のせいですよね。

「えーでは全員そろったところで二人一組の組分けを発表します。三輪、宝。山田、勝呂。奥村、杜山。神木、志摩。小川さんは僕です」

あ、私は奥村先生となんだ。
小さくよろしくお願いしますと言うと奥村先生も返してくれた。
正直な話、女子とがよかったなんて絶対に言えない。
だって私全然女子と仲良くないんだもんよ。
杜山さんとは挨拶する程度だし話そうとしても会話が続かない。なぜだ。
神木さんは…うん、ちょっと、関わりにくい。だってこの前挨拶したらちょっと睨まれちゃったし。
いや、睨まれたわけじゃないのかもしれないけど、ちょっと心が折れそうになったのよ。
私だって女の子。
女の子と女の子のハナシをしたいわけですよ。
こういうのってすごいいいチャンスなんだけどなあ…。なんか上手くいかないんだよな。
合宿の時は自分のことで精一杯だったし、なんか、タイミング完全に逃した。
はあ、とため息をついて、意識を先生の説明に集中させる。
今回はここで幽霊探しをするらしい。
霊の定義をスラスラ答える神木さんに感心しながら(私だって知らないわけじゃないけどあんなにわかりやすい説明はできない)何の気無しに空を見上げる。
そしたら、

「……。」

なんか、黒い影が見えた。
いやいや、つーか見える。いる。
ジェットコースターからこちらを見下ろしている、奴、アマイモンとバチリと目が合った、気がした。遠くてよくは分からないけど。
なんであいつがあんなところにいるんだ。と先日の地獄観光巡りを思い出しながら冷や汗が滲み出る。

「以上解散!」

先生のその言葉で意識が一瞬それからズレて、再び視線を戻せばアマイモンさんはいなくなっていた。
ああ、私の勘違いだと信じたい。
じゃあ行きましょうか。とニッコリ笑顔でいう奥村先生に、きっとこの人は気付いてないんだろうな、なんて思いながら私は頷き、奥村先生の後ろをついていった。

霊よりもやべぇもん発見しちゃいました、先生。