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「じゃあ私は左側見てますね」
「はい、お願いします。……それにしても、小川さん…」

ただ今奥村先生と目下幽霊捜索中。
いざ見つけるぞって時に、私のペアとなっている奥村先生は何かを言いたそうに、でも言いずらそうに私の名前を呼んで、きょろりと視線を泳がせた。
何ですか?と聞けば、奥村先生は苦笑しながら「そのですね…」と頬をポリポリと掻く。

「すごいですね。魍魎の、数…」

ああ、そう言うことか。
と今度は一人で納得した。
そう、今私の周りには魍魎が信じられないほど浮いている。
私が不潔とか、そう意味ではない。決して違う。断じて違う。
集合時にはできるだけ散らしてたんだけど二人に分かれてからというもの、ふよふよとまた私のところに戻ってきたのだ。
しかも私の前は絶対に空けていて視界の邪魔をすることはないし、私の後ろをちょこちょことついて来ているだけ。
なんか可愛くないですか。健気な飼い犬みたいで。

「可愛いですよね。魍魎」
「えっ、あ、ああ…そ、そう、そうです、ね…」

奥村先生が吃るのも無理はないと思うし、苦笑いしてる奥村先生の気持ちが分からないわけでもない。
だって悪魔だし。
菌類にとりつく悪魔だし。
大抵の人が虫のような悪魔だって認識してると思うし。
こういう分かりやすいところは、双子なんだなって、少し笑えてしまった。

「あはは、別に無理しなくてもいいですよ」
「…いえ、その…すみません」
「いやいや、謝るようなことじゃ。…ごめんね、みんな。私いま先生と用事してるから、」

後でおやつあげるよ。
と言うと魍魎たちはさーっとあちこちへ飛んでいってしまった。
お前たちの目的はボーロだけか!と思わず言いたくなってしまったけど目を丸くしてこちらを見る奥村先生の視線が、それをさせてくれなかった。

「そんなに驚きました?」
「はい…。使い魔なわけでは、ないんですよね」
「はい。そうですよ」
「…すごいですね」
「そうですか?杜山さんと制服姿と…どっちがびっくりしました?」
「…なぜそこでしえみさんが出て来るんですか」

くい、と眼鏡をあげて不服そうに言った奥村先生に、私はにたりと嫌に笑ってやった。
だってね、制服着てた杜山さんを見てる奥村先生の目って、点だったよ、点。多分すっごい驚いてたよ。

「可愛いですよね。杜山さん」
「…早いとこ探しましょう」
「内心デレデレですか?」
「僕の話聞いてましたか?」

そろそろ本気で怒られそうだったので「すみませーん」と私はその話をやめることにした。
とは言っても、ニタニタ笑ってるんだけど。
そして幽霊探しを再開しようとしたその時、
建物が崩れるような、大きな音が聞こえた。

「なんだ…!?」
「奥村先生!あれ…!」

私が指さしたのはジェットコースターで、さっきまでなんともなかったあのアトラクションの一部分が、砂煙を起こしながらガラガラと地面に落ちていっているのが見えた。

「見てきます!小川さんは集合場所へ戻ってください!」
「は、はい…!」

奥村先生は急いでその場を去った。
私も指示通りに集合場所へと戻ることにする。
ただ、嫌な予感はした。
アマイモンさんが、何か仕出かしたんじゃないのかな。
確信に近いそれはどんどん私から余裕というものを奪っていく。
ハラハラしながら、状況がはっきり見えなくなってきた私は、いてもたってもいられず奥村先生の指示を無視して、先生の後を追っていた。