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どうやら高校は、一学期が終わり夏休みに突入したらしい。
そこで、候補生の私たちは林間合宿と称し、3日間、実戦訓練を行うことになった。
引率は奥村先生と、こないだネイガウスさんの代わりに異動してきた霧隠先生。
というか、あの常にフード装備してる山田君だった。
すごく胸でか…じゃなくて、何で生徒のフリしてたんですか?とか、せっかくの勝呂くんの質問も"大人の事情"とやらでサクッと片付けられてしまい、私としてはなんか気に食わなかった。

「…祓魔師いうか……行軍する兵隊みたいな気分やな…」

というわけで、林間合宿。
私はこの夏の炎天下の中、すごく重たい荷物を背負って山道を登っている。

「うおーい滝だ!!おーい!ちっちゃい滝あるぞー!飲めっかなコレー!!」
「止めなさい奥村くん」

そんな中、みんなが必死に山を登っているというのに、この双子はなんて奴らなんだろう。
奥村くんは元気いっぱいだし奥村先生はいつものあのコートを着ている。
恐るべし。奥村ツインズ。
私なんか暑さと疲労で視界がクラクラしてるってのに。

「小川さん、大丈夫か?顔色むっちゃ悪いで」
「え〜?」

滝のように出る汗をタオルで拭っていると、隣にいた勝呂くんが心配そうな顔をして私に聞いてきた。
大丈夫かと言われれば、全然大丈夫じゃない。
でも「もう無理。もう歩けない」なんて言えるわけがないから、私は平気、平気。と自分に言い聞かせるように言いながら、スポーツドリンクをがぶりと飲んだ。

「あんま無理せんとき」
「大丈夫。きっともうすぐ着くはずだよ。あそこにお花畑が見えるもん。小川も流れてるよ〜」
「先生。小川さんが瀕死です」

やだな。ちょっとした可愛い冗談じゃないか。ただのボケだよ。と笑いながら言ってはいるけど、でも正直、やばいにはやばい。
お花畑だって小川だって見えちゃいそうだ。
は、もしや。
これがネイガウスさん禁断症状か。
3日間も会えないとなるとこんな風になっちゃうってことなのか。
……そんな冗談言うのも億劫になってきた。
勝呂くんの言葉を聞いて私のとこに歩み寄ってきた奥村先生が大丈夫ですか?とふらふらしてる私の体を支えてくれる。
私はぼんやりとした意識の中で、ありがとうございます。とだけ言って、
それから、どうしたんだっけ。
気付けば私は、テントの中で眠っていた。
なんで。と思うと同時にテントの外を覗いてみる。と、

「あっ!」
「あ…」

すぐそこには、杜山さんがいた。
びっくりして、瞬きを何回もしてしまったけど、杜山さんも私よりびっくりしたらしく、わあ!とそのまま尻餅をついていた。

「だ、大丈夫?」
「わ、私は大丈夫!それより、あっあの、小川さん、き、急に倒れちゃってっ!ゆきちゃんが熱中症だろうって!」
「え?ゆ、ゆきちゃん…?ああ、先生のことか。そっか。私倒れたんだ」

最後の記憶を探してみるけどどうにもはっきり分からない。
どうやら本当に倒れたみたい。
体力どうにかなんないかな。
はあ、とため息をついたら杜山さんが顔をくしゃりと歪めて大丈夫?と聞いてきた。
なんだか泣きそうな顔だったから、私は慌てて大丈夫だと肯定する。でも本当に、今は普通に具合もいい。

「杜山さんとこんなに話すの、初めてだね」
「えっ!う、うん…」
「嬉しいな」
「!ほ、本当!?」

パアと顔を明るくした杜山さんがすごく可愛くて、私も思わずつられて笑ってしまう。
あのね、私ね!と続けられた言葉を待っていると、いつの間にか私の手は杜山さんの手に繋がれていた。
その手は、すごく熱い。

「小川さんとお友達になりたいの!」

そう言った杜山さんの顔はすごくすごく真剣で、そんな突然のお願いに、私は思わず、あははと声を出して笑っていた。

「じゃあ、しえみって呼んでもいいのかな」
「う、うん!あ、あの!ちとこって呼んでもいい!?」
「いいよ。しえみ」
「っ!ありがとう!」