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「…では夕食が済んだところで今から始める訓練内容を説明します」

カレーを食べ終えてみんなで後片付けをしたあと、私たちは訓練を始めることになった。
実は今年で26歳だったらしい霧隠先生はお酒を飲んででろんでろんに。
そんな霧隠先生を捨て置いて、訓練内容の説明は進められた。
内容はシンプル。それでいて、シビアなものだった。
森の何処かにある提灯に火を点けて拠点まで戻るだけ。3日間の合宿期間内に提灯に火を点けて無事戻ってきた人全員に実戦任務の参加資格がもらえるらしい。
でも問題はここからだ。
提灯は3つしかなく、実戦任務の参加資格は3枠しかないということ。
3つの提灯を争奪し合う。
それが訓練。

「――だけど奪い合い始めたら多分全員自滅や。この任務、とにかく自分自身が取ることだけ考えるのが正解やな…!助け合いもナシや!」

なるほど。と私はブーツの紐をしっかりと結んだ。
3枠しかない参加資格。
なんか、祓魔師は協力しないと戦えないなんて言ってたのになあ。
そうは思ったけど、そんな矛盾点にそれ以上の疑問を持つこともなく、

「それでは、位置について…よーい、」

ドンと奥村先生の銃の音が鳴る。
訓練開始の合図で、私たちは四方八方に散っていった。
暗い森の中。懐中電灯の明かりだけを頼りに走る。
はっきり、むっちゃ不気味でむっちゃ怖い。
いやいや負けるな私。怖い感情は捨ててしまえばいい。
この合宿が終わればネイガウスさんに会えるんだぞ!
しかも実戦任務の参加資格なんてもらえたら「よく頑張ったなよしよし」してもらえるかもしれないんだぞ!おっしゃあ俄然やる気出てきた!ネイガウスさんと一緒にお仕事なんて夢じゃないぞ!
とか無駄に前向きなった矢先、

『ブブビピピピガギギギッ』
「……ッ、ぎゃああああ!!!!」

視界いっぱいに広がったのは、大量の……蛾。
懐中電灯武器にブンブン腕を振り回すけどその蛾の群れは一向に少なくなったりしない。
多分、虫豸の類。
どうしたものかとポケットから魔法円の略図を取り出す、も、
いやいやいや、無理無理。
なんだかんだあの授業以来、私は悪魔を召喚したことがない。結構怖かったから。
しかもなんの悪魔呼んでいいか分かんないし!
そんなこと考えているうちに虫豸がどんどん私を覆うように群がり、前が見えない息がしたくないで頭がおかしくなりそうになってきた。

「なにやってんの…!」
「!!か、みきさ…っ」

そしたら、聞き覚えのある声とともに、突然視界が開けた。
びっくりして、すぐに声のした方を向けばそこには神木さんと、使い魔の白狐2体が。
追い払ってくれたの?そう問えば、別にあんたを助けたわけじゃないわよ!となんとも可愛らしい返事が返ってくる。
なにこのツンデレさん可愛いんだけど。

「神木さあん…!」
「な、なによ」
「くぉわかったよおお…!」

いや、もうまじで怖かった。
神木さんに何か変な目で見られてるけどちっとも気にならないよ。
何はともあれ、助かってよかった神木さん万歳!

「あんた虫にも好かれるのね」
「今なら出雲ちゃんに何言われても許せるや」
「なっ、馴れ馴れしく呼ばないでよ!」