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「出雲ちゃん出雲ちゃん!あれ、提灯じゃない?」
「…!化燈籠…?」

出雲ちゃんに助けられ、無理無理一人じゃこんな森の中歩けないと泣いてすがったのが30分ほど前。
やっと同行を許してもらえた私は懐中電灯を消して暗い森を神木さんと、二人で歩く。
大分目もなれてきた頃、私は少し奥に、"提灯"を発見した。
提灯というには、とても大きくて重そうだけれど。
神木さん…出雲ちゃんと顔を見合う。
もしかして、と、二人して声が重なった。

「こんなの、一人でなんて無理ね」
「やっぱり、チームワーク重視なんだね」

まあ私だったら一人でも大丈夫だけど。
そう言った出雲ちゃんに、私はもしかしたら出雲ちゃんの邪魔をしてるんじゃないかなとか、そんなことを思った。
だって私、無理やり出雲ちゃんにくっついてるわけだし。
出雲ちゃんが使い魔を使いなんとか化燈籠を運ぼうとしている時、私は後ろでボーッとその光景を見る。
そしたら眉間にシワを寄せた出雲ちゃんがこちらを睨むように見てきたので、ドキリと心臓が、小さく跳ねた。

「なにやってんの。あんたも手伝いなさい」
「え、いいの?一人でやりたいんじゃ…」
「そういう意味で言ったんじゃないわよ。元々これ見つけたのあんたでしょ」

それは、二人で運ぼうって言ってくれてるんだろうか。
そう思うと嬉しくて、顔が綻ぶのが自分でも分かった。

「何ニヤニヤしてんのよ」
「んは、なんでもないっ」
「………どうでもいいけどあんた使い魔出せる?」
「え?ううん」
「はあ?」

なんで?と聞かれて、私もなんでと聞かれても。と暢気に返事をして、出雲ちゃんはそんな私を見て大きなため息をついた。

「魔法円の略図は?」
「それならここに…」
「なんか重たい物運べそうな使い魔いないの?」
「そもそも私、使い魔がいないんだけど」

また、出雲ちゃんがはあ?と信じられないって感じの顔をして私を見た。
魍魎なんかも使い魔みたいなものだけど、ここ魍魎いないし化燈籠なんか運べないだろうし。
ごめんね。と謝れば、またため息。

「やってみたら?」
「へ?」
「この際何でもいいから召喚してみたら?」

思わず、声を出すのを忘れていた。
だってビックリしたから。
私のために、出雲ちゃんの時間が勿体ないと思うんだけど。
ポカンとしてると早くしなさいよと出雲ちゃんが急かすように言ってきたから、私は慌てて魔法円を手に持った。

「どうすればいいかな」
「自分で考えれば」

なんか冷たい。なんて拗ねそうになりながら、私は魔法円を見詰める。
自分の血をつけて、自分の思い付く言葉を言う。それだけなのに、すごく難しい。
ネイガウスさんは、何を召喚したいか、名前を呼べばいいって、そう言ってたから、そうだな、

「ゴーレム」

石、岩に憑依するゴーレムなら、こんな化燈籠ちょちょいのちょいじゃない。
そう思って、名前を呼ぶ。
でも、名前を呼んだだけじゃ、反応はなく、

「ゴーレム、おいで」

そう呼びかけても、なにも起こらなくて、
やっぱこれじゃないと、悪魔は来てくれないのかな。なんて、我ながら、笑ってしまった。

「ゴーレム、ボーロの時間ですよ!」

もう魍魎たちに何度も言った言葉を言えば、魔法円の紙がふるふると動きだし、螺旋状に煙があがった。
煙が晴れ、視界も見やすくなったところで私は出てきたそいつの姿を確認した。
でも、それらしき姿が見当たらない。
失敗したのかも。そう思って、私は再び出雲ちゃんに謝ろうと一歩踏み出した。
すると、

「いたっ」

なにか固いものにつまづいてしまい、こけそうになった。
条件反射でそのつまづいた場所を睨むとそこには、

「……ゴーレム?」

手のひらサイズの、小さなそれがいた。

「ちっちゃ!そんなゴーレムで何が運べんのよ!」
「い、意外と力持ちかも…!」
「絶対ない!」