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どえらいことになってしまった。
訓練中、いきなりアマイモンさんが現れてペットのベヒモスを使って襲いかかってきた。
多分、奥村くんに。
なんとか霧隠先生のおかげで絶対牆壁が張られ難を逃れることができたものの、それも一時的なもの。
私たちはアマイモンさんの襲撃に備えるべく、CCC濃度の聖水で重防御する。
どえらいことになってしまった。
メフィストさんも、一体何を考えているんだ。
ため息をつくと、私はアマイモンさんが吹っ飛ばされて消えた方向を見上げる。
ちゃっかりメフィストさんが寛いでいて、なんていうか、ムカついた。

「あの…アマイモンは一体何が目的なんです」
「さあ、何でかにゃあ」

勝呂くんの疑問も、きっとみんなの気持ちを代弁している。
みんなにとったら、全然わけの分からないことだろう。
だってアマイモンさんは八候王、悪魔の王様の中の一人、地の王なのだから。
そんな滅多に見ることないような大物が、なんでたかだか候補生たちの訓練中に、乱入してくるんだって感じだ。
だけど私は知っているから。
アマイモンさんは奥村くんと"遊び"たくて、それでここに来た。

「小川さん、顔が怖いえ」
「勝呂くん、」
「…これが何か、知っとるん」

しまった。そう思った。
すぐにしらばっくれればよかったのに、言葉が出てこない。
それでばか正直に表情にそれを出してしまったんだろう、勝呂くんが、顔をしかめた。

「小川さ――」
「小川!来い!」
「ッ!!は、はい!」

都合よく先生に呼ばれて、私は勝呂くんに一言断りを入れ、逃げるように先生のところに向かった。
すごく怪しいと思う。
それでも、喋るわけにはいけないことだから。

「何ですか、先生」
「お前、嘘下手だなあ」

余計なお世話だ。
そう言ってやりたかったけど、助かったのは事実。
素直にお礼を言うと、意外だったのか霧隠先生は目をぱちりと瞬かせ、そしてにやりといやらしく笑った。

「よし、まあ本題だ」
「本題?」
「アマイモンが再び襲撃してきたとき、奥村は多分、戦うことになる。もしかしたら、こいつは炎に呑まれて暴れだすかもしれない。その時になったら、お前がこいつを止めろ」
「…え?」

隣にいる奥村くんの顔を見る。
目が合った。
真剣な顔だった。
私は言葉を発することなく、視線を先生に移す。

「お前にしかできない」
「私にしか…、」
「できるな?」

私は頷く。
頷くしかなかった。
いつかメフィストさんが言ってた。
私はほぼ全ての悪魔を手駒にできる。
それなら、暴れだした奥村くんも、アマイモンさんも、止めることができるかもしれない。
私にしかできないのなら、私がやるしかない。

「奥村くん」
「…ちとこ」
「今から奥村くんは、私の使い魔だね」
「な!…ん、いや……そうだな」

頑張れ。と言うと、頼むぞ。と返事が返ってくる。
無事にこの状況が終われば、やっぱり私は奥村くんにボーロをあげた方がいいんだろうか。
そんなことを思いながら、一方、私の帰りを待っているかどうかは不明だけどネイガウスさんのことを考える。
今日はこんなに頑張ったんだから、帰ったらいっぱいネイガウスさんに甘えてやる。
それで頭を撫でてもらって、それから、一緒にザワークラウトを食べるんだ。
そうやって心に決めて、気合いを入れた。
それでも手は、震えていたような気がする。

その時気づけなかったのは、しえみの様子が変だったってこと。