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「しえみ…!」

気づけなかったのは、誰のミスだろう。
違う。誰のミスでもない。

「これで晴れてこの女はボクの言いなりだ」

テヘ。としえみに寄りそうアマイモンさんを殴ってやりたい。
しえみが、捕られた。
アマイモンさんが何らかの方法でしえみに中豸の卵を生み付けた。
孵化した幼虫は神経に寄生。そして、
しえみは脳を乗っ取られてしまった。

「さあおいで」

アマイモンさんの腕に乗ったしえみはそのままアマイモンさんと森の中へ。
奥村くんと霧隠先生はそれを追いかけて、それで、牆壁から出るな。それだけを言われ、他のみんなは置いていかれてしまった。
私は、動くことが出来なかった。

「…アマイモンさん、もう絶対にお菓子あげない……」

ただ、怖いとか、動けなくて悔しいとか、情けないとか、そんな感情はなかった。
だって強かろうがなんだろうが、アマイモンさんだし。
アマイモンさん自体は怖くない。
動けなかった理由、それは、それは、

「私の友達に手ぇ出してんじゃねえよこのトンガリまろまゆ食いしん坊隈野郎がぁああ!!!」
「小川さん!?」

ただの怒りさ!
許すまじアマイモン!許すまじ凶悪兄弟!!
出たらあかん!とかそう言う声も聞こえなくて、私は先生の注意なんて完全無視で牆壁から出る。
そして私が真っ先に向かったのが、

「メフィストさん!あんたがアマイモンさん野放しにしたんでしょ!!」
「おや、とんでもない言い掛かりですね」

メフィストさんのところだった。
宙で悠々とお茶を飲むそいつに腹が立つ。
どうせ奥村くんの力量を調べるためだとか、そんなことで、みんなは巻き込まれてるんだ。

「あなたはサタンを倒したいのでは?これは奥村燐にとって、必要なことだ」
「けど…!アマイモンさん頭おかしいからしえみに何かするかもしれないでしょ!?」
「ハッハッハ!なら自分でなんとかするといい」
「はあ!?」
「これはあなたにとっても、必要なことなのです」

さあ、私なんかに構っていたら、お友達はどうなるかわかりませんよ?
そう言われて、私はギシリと歯噛みすると、走って奥村くんのところへ急いだ。
私のことだって、武器として色々試しているんだと、言いたいのだろう。
アマイモンさんを止めるのは、私の仕事ってことか。

「小川さん!?」
「どこ行ってたん!!」

奥村くんたちのところへ向かっていると、ちょうど勝呂くんたちに会った。
私はただ笑って、何でもないと答える。
やっと奥村くんとアマイモンさんのところに着いたかと思うと、奥村くんは地面に伏せていて、アマイモンさんは目玉を取るとがどうとかふざけたことを抜かしていた。
私は考えることもせず、やみくもにそこら辺にあった石をつかみ取る。
そして、

「何言ってんだテメー!!!!」

アマイモンさんに、思い切り投げつけてやった。
石は見事アマイモンさんの顔にクリーンヒット。鼻が真っ赤になった。

「うわああ!小川さん何してるん!」
「うるさい!しえみを放せ!」
「……嫌だと言ったら?」
「じゃあボーロあげません!」
「……。別にいらないと言ったら?」
「あり得ねぇよあんだけ私に買い物行かせといて!」

ばれましたか。とアマイモンさんは可愛くもないのに舌を出す。
それがいちいち私のムカつきポイントをつっついて、私はイライラで爆発しそうになった。爆発なんてしないけど。
私がアマイモンさんを睨んでいると横からパシュッと光のようなものが飛んでいった。
すぐにそっちを見ると、勝呂くんたちが花火を上げたようで、次々と火をつけている。

「俺らは蚊帳の外かい。まぜろや」
「よせ…バカ!!」

逃げろ逃げろと両者は言う。
次々と花火が打たれていくのを、アマイモンさんはただじっと見ていた。
しかし、三輪くんの放った一本が、アマイモンさんの頭を直撃する。
やばいことに、なった。

「フグッ ブロッコリ…!!」
「志摩…!」

花火が当たったのはあのアマイモンさんのトンガリ部分で、焼けたその髪の毛はチリチリになってしまい、しかも髪の毛が緑色なのもあり、その状態はブロッコリーさながら。
志摩くんが笑うのも分かるけど、ここは空気読めよ志摩廉造…!!

「ボクを笑ったな」

事態は最悪。
笑われたことに怒ったアマイモンさんが志摩くんを蹴り飛ばし、三輪くんの腕を折り、勝呂くんの首を締め上げた。

「アマイモンさん!やめ――」
「…ケッ…お前なんかに用ないわ。俺が腹立ててんのは…手前や奥村!!」

私の声を遮ったのは勝呂くんで、私は思わず口をつむぐ。
あのアマイモンに殺されそうになってるのに、勝呂くんは、奥村くんのことを見ていた。

「何なんや手前は!?何なんや!!」
「お…俺は、」
「……何の話ですか?ボクは無視されるのはキライだな」
「ガボッ」

勝呂くんの口から、血が、出てきた。
すごい力で首を掴まれているんだろう。
息も、出来ないと思う。

「や、めて!」
「…。」

私がアマイモンさんの腕を掴んでも、びくともしない。
アマイモンさんはただ私を眺めるように見ていて、その手を放そうとは、しなかった。
なんで、言うこと聞いてくれないの。
小さくそう呟くと、カハッと、勝呂くんの息が聞こえた。

「やめろ!」

そんなとき、奥村くんが、刀を持って、立ち上がった。
やめろ。また、そう小さく言って、刀を入れていた布を外す。
アマイモンさんの視線は、私から、奥村くんへと移された。

「兄さん!!これは罠だ!誘いに乗るな!」

いつの間にか、奥村先生がいて、奥村くんにそう叫んだ。
でも、多分、奥村くんはそんなの、関係ないんだと思う。

「雪男…わりぃ…俺、嘘ついたり誤魔化したりすんの…向いてねーみてーだ。だから、俺は…」

優しいことのために、炎を使いたい。
そんな声が、聞こえた気がした。
そうして奥村くんはこの時始めて、みんなの前で刀を抜いたのだ。

「来い!!相手は俺だ!」