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「何…?なんなの…!?」
「皆さん大丈夫ですか?」
「先生。奥村くんはあれ…どうなって…」
「話は後で!とにかくこの場所から離れましょう。急いで!」

奥村くんが刀を抜いた。
青い炎が身を纏う。
アマイモンさんは、なんかすっごい楽しそうな顔をして、闘っている。
青い炎が森を灯す。
私は気がついていた。
途中から、アマイモンさんが少しも笑ってなどいないことに。

「小川さん!ここは危険です、早く!」
「奥村先生、…そんなことより、しえみは大丈夫?」
「寄生虫は取りました。意識ももう少しで回復するでしょう」
「ああ、よかった。じゃあ、私のことは気にせず、行ってください」
「な!」

にっこりと笑ってそう言うと、奥村先生は何を言ってるんですか!と怒鳴るように私に言った。
それでも、私はここを離れない。

「奥村くんは、今は私の使い魔ですから」

主人として、残るのは当然です。
そう続けた私に、今度は奥村先生はため息をついた。

「あなたは本当に、不思議な人ですね」
「おい雪男!早くしろ。この森からでるぞ!!」

霧隠先生に呼ばれ、奥村先生はすぐに私に背を向けた。
霧隠先生は、私がここに残るなんて分かりきっていることだろう。
なんせ私に奥村くんを止めろって、言い出した本人なんだから。

「怪我はしないように」
「…。わかってますよ、奥村先生」

思わず微笑んでしまった。
奥村先生は私の返事を聞くとしえみをおぶって走り出す。
三輪くんや志摩くんが私のことを呼んでいたけど、手を振っておいた。
早くケガを手当てしてもらわないと。

「呑まれてんなあ…」

視線を奥村くんとアマイモンさんに移し、ぽつりと呟く。
奥村くんはもう完全に炎に呑まれているだろう。
本人には絶対に言えないけど、その姿はまさに悪魔。今の奥村くんには、一体何が見えてるんだろう。
ていうか、こんな状況で、私の声が届くんだろうか。
そんな弱気な考えはすぐに遮断する。
ここで引いたら、ネイガウスさんに二度と会えないと思え。
奥村くん、あんたも。
悪魔になんて、ならないんでしょ?

「やめろぉぉおおお!!!!」

いっぱいいっぱい息を吸って、出来る限りの大声を出す。
その声はちゃんと二人に届いたのか、二人はピタリと戦うのを止めて、私を見た。
しかしそこは奥村くんと違い、自我のあるアマイモンさん。その隙を狙い、再び奥村くんに殴りかかった。

「はあ!?ちょっとアマイモンさん!何してくれちゃってんの!」
「兄上から許可はおりてるんです。邪魔するな!」

ムカムカ。
どうやら近頃アマイモンさんは私を怒らせるのがお得意らしく、私は小さく舌打ちをした。
邪魔するなって、邪魔するなってあんた。

「ふざけんな!今すぐ止めろ!!サクッと止めろ!!奥村くんも!わかった!?二度とボーロあげないからね!!」

そう言うと、なんとか二人はケンカを止めたけど、すげー睨みあっててまたすぐにでも戦い始めるだろう。
アマイモンさんは拗ねた子どものように私を見た。

「いやだ!」
「嫌だじゃない!もうおしまい!」
「グルルル…グルァアッ!!!!」
「奥村くんも威嚇しない!」

何なんだこの状況は。
まるで気分はさながら保育士さん。もしくは幼稚園の先生。
自分でもおかしいだろ。なんて感じながら二人を宥めていると、急に笑い声がした。
いつの間にか、メフィストさんが来ていて、アマイモンさんと奥村くんの腕を掴んでいた。

「本当に面白い人ですね、ちとこさんは!すみません、笑ってて少し出遅れました」
「は、はあ!?」
「ハイハイボク達!そこまでです。これ以上は私の学園がケシズミになる。今日のお遊戯はこれにて終了!」

アッハッハッと笑いながら、メフィストさんはもの凄いスピードで回りはじめた。
両手にはアマイモンさんと奥村くんの腕を持っているわけだから、もちろん二人もちゃんと回っている。
アマイモンさんの怒る声が聞こえるけど、さすがに私には止められない。
私が保育士なら、メフィストさんはさしずめ園長先生。
ノリを合わせてくれたのかなんなのか、不意に私に送られたウインクには少しムカついた。

「空が白んできたな…さぁ二人ともそろそろ家へ帰る時間だ」
「兄上!今回は兄上の筋書きに沿えば好きに遊んでいいと、約束してくださったではないですか!!」
「学園を壊すなと言ったはずだぞ。それにお前、もうわかったのじゃないか?この末の弟との…圧倒的な力量差ブングル!?」
「ボクはまだ負けてない!!!」

メフィストさんが、アマイモンさんに殴り飛ばされた。
そうか。やっぱり、アマイモンさんから途中で笑顔が消えた理由。
アマイモンさんは、必死だった。

「園長先生、大丈夫ですか」
「アッハッハッハ…!ウ〜ン!聞き分けのない園児だ」

鼻血を出しながら笑ってるなんて結構不気味だ。
メフィストさんはペロリと血を舐めると、帽子を傘で叩き、そして、そこからクーヘンズクックククス……クックス………?まあよく分からないけど大きな鳩時計を出し、その鳩にアマイモンさんを食わせると時計ごと消してしまった。
虚無界にでも、帰したのだろうか。

「さて、と。行きましょうか?奥村くん。おや?」
「グルグルグル…グルルオ"オッ」

獣のように吠えた奥村くんから、凄まじい炎が出される。
よくまあ、こんな状態で私の声が届いたもんだ。
嬉しいけど、やっぱり、奥村くんが奥村くんじゃなくなるなんて、悲しいことだ。

「ちとこ、来てください」
「はい…」
「奥村くんを頼みます」
「え、うわ!」
「とりあえず、帰りましょう」
「え、は、はイイイ!!!奥村くん大人しくして!」
「グルァアッ!!!」

暴れる奥村くんをなんとか抑え込み、メフィストさんが私の肩に手を置いた。
その瞬間、ボンッと音が鳴ったと同時に煙が視界いっぱいに充満し、その次にはもう光景そのものが変わっていて、私たちはみんなのいるところへ、来ていた。
瞬間移動なんて、なんでもありだなこの人。

「グルル…グオオアアッ」
「暴れないで奥村くん!メフィストさん早く刀しまえよ!」