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あのあと、手当てもしてもらって、それから、奥村先生がみんなに奥村くんのことを説明した。
志摩くんと三輪くん、付き添いに勝呂くんはそのまま病院へ。私たちは、各自解散となった。
多分、奥村くんは大丈夫。
メフィストさんだって、こんなことは、想定内のはず。
だってすごく楽しそうだったから。
奥村くんを見殺し、なんてあり得ないだろう。
そんな、妙な確信を持ちながら、私は1人、帰り道を歩いていった。

「事情は聞いてある。傷を見せろ」

ネイガウスさんの部屋に着くと、ネイガウスさんはそれだけを言って、私を部屋へ入れてくれた。
傷はもう見せてるんだけどな。
そう思ったけど、何も言わないでおいた。

「痛むか」
「うん…、少しだけど…。でもそんなに痛くはないよ。きれいに手入れしたら痕も残らないって」
「そうか」

一番酷いのは腕の火傷で、せっかくきれいに手当てしてくれたのに、ネイガウスさんは私の腕からガーゼと包帯を丁寧に外していく。
一ヶ所、小さくはあるけどちょっと酷いところがあって、そこはぐちゅりとただれていた。まあ、ここは、痕にはなるだろうけどしょうがない。2センチないくらいの傷だし。
ネイガウスさんは静かに薬を取りだし、それをラップに塗り込み始める。
何をしてるんだろう、と首をかしげていると、ネイガウスさんはそのラップを私の傷口に巻き始めた。

「なんでラップなんですか?」
「知らないのか。ガーゼや消毒は最近ではあまりいいとされていない」
「へえ…」

さすが医工騎士。
そうヘラリと笑って能天気に言うと、なぜかネイガウスさんの顔が怖くなった。怒ってるみたいな顔。
もしかして、余計なことを言ってしまっただろうか。不安になって、はらはらする。
謝ればいいんだろうか。と、とりあえず。
そう思って、口を開いた時だった。

「やはり、関わらせるべきじゃなかった」
「え…?」
「結局、お前は傷ついた」
「ネイガウスさ…ん…?」
「他人のために、傷つくな…」

ネイガウスさんの両手が、私の頬っぺたに添えられた。
ひんやりして、かったい手。
ネイガウスさんの目は悲しそうで、泣いちゃいそうで、思わず、私が泣きたくなる。
ああ、そうだ。前に私、ネイガウスさんに同じようなこと言ってなかったっけ。

「ネイガウスさんのためだよ…」
「ちとこ…、」
「ネイガウスさんのためだよ!」

我慢できなくて、涙が出てきてしまった。
ネイガウスさんのために、私は強くなりたい。
新しく出来た仲間のために、私は強くなりたい。
強くなって、仲間を助けたいし、ネイガウスさんのために、戦えるようになりたい。
だから、傷ついても、痛くない。
いや、痛いけど、泣くもんか。
だから、他人のためなんかじゃないんだよ、
他人なんかじゃ、ないんだよ。

「私は…っね、ネイガウスさんにっ…ほ、誉めてもらいたくて…っ」
「ちとこ」
「友達もっ、守りたかったし…っ」
「ちとこ、」
「ネイガウスさんのためにっ、が、頑張ったんだ、から…!」
「もういい、ちとこ」

子供のように泣いていると、突然、体がネイガウスさんに引き寄せられた。
ぼすりと私の体はネイガウスさんの体に受け止められて、距離が近すぎて、ネイガウスさんの姿は真っ黒な髪の毛くらいしか見えなくなっていた。

「よく頑張った」
「ネイガウス、さん…、」
「お前にしては、よくやった」
「う、っく、…ぶぇ、えええ…っぐじゅっ」
「不細工な泣き方だな」
「うるざい…っうれじい……っ!」
「どっちだ」

これでもかってくらいネイガウスさんの肩にうりうりとすりついて、ネイガウスさんは呆れたように、だけど私の頭を優しく撫でてくれた。
寂しかったし大変だったし痛かったし熱かったし苦しかったし。
でもこんなことで忘れちゃえるんだから、不思議。
なんてやつ、なんてやつだ。
大好きだ、こんちくしょう。