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「あ…あたしは…!」

やめて、やめて、出雲ちゃん。

「『サタンを倒す』だとか、『友達』だとか!綺麗事ばっか言っていざとなったら逃げ腰の…」

それ以上はどうか言ってくれないで。
お願いだから。

「臆病者が大ッ嫌いなだけよ!」
「…黙って聞いとれば言いたい放題!!誰が臆病者や!」

ほうら、みんなで仲良く囀石の刑だ。
出雲ちゃんと勝呂くんが喧嘩をはじめて、そのおかげで安眠妨害された霧隠先生は激怒。
私たちはまた、連帯責任とかいうやつで正座、その膝の上に囀石という地味だけどえげつない罰を与えられてしまった。
なんだろう、進歩ないなあ。
なんて思っていると、志摩くんが私の気持ちを代弁してくれた。
多分、みんな感じてるんじゃないかな。
ああもう。早くも挫けそうだよ、ネイガウスさん。
しえみはこんなだし、私はろくに元気つけれないし、勝呂くんたちには、奥村くんのこともあるし。出雲ちゃんは、素直じゃないし素直だし。
こんなんで、私たちが実戦?
できるのかな、そんなこと。
気持ちが負けてちゃ、もともこもないって、分かってるんだけど、
それでも、挫けそうだよ。ネイガウスさん。

「そんなことより…先生は何で奥村くん置いていかはったん?もしも何かあったら…危ないやんか!!」

一番危ないのは、今の塾生同士の関係なんじゃないか。
もし今の状態で悪魔に襲われたら?
協力なんてまず不可能。
それが、私は一番危ないと思う。
でも、きっと青い夜で大切なものを亡くしてしまった人たちにとったら、炎は一番恐ろしいもので、サタンの子どもは、憎むべき存在なんだろう。
ネイガウスさん、みたいに。
一番後ろで、そんなことを考えながらみんなの様子を眺める。
そしたら三輪くんの上に乗っていた囀石が突然飛び上がった。
そしてその囀石はしえみにのし掛かり、ミシミシと嫌な音をたてる。
息が、できなくなった。

「しえみ!!」
「杜山さん!!」
「古い強力なのが混ざっとったんや…!はよ引きはなさなどんどん重なって潰される!!」

勝呂くんと志摩くんが持ち上げようとするけど、当たり前のようにそれじゃあ重さが増すだけで、志摩くんが杖(キリクっていうらしい)で割ろうとするけど、それもダメで、
私はハ、ともヒ、とも取れないような、素早い息をした。

「お願い囀石!しえみから離れて!」
「小川さん!?」
「いい子だから、ほら、ね?」

考えることはやめてしまっていた。
今はしえみが潰されちゃわないように必死で、囀石を説得させるように私はしえみにのし掛かる岩を撫でた。
前に正座で囀石乗せられた時に、撫でたらすっとそれが軽くなったのを思い出した。
だったら、そう思って同じようにしてみる。そしたらいくらかしえみの顔が和らいだ気がして、ほっと息をついた。のだけど、

「悪魔に話しかけてもしょうがねぇだろ!俺にまかせろ」
「え…?あっ」

奥村くんが、囀石を持ち上げてしまったのだ。
力を入れれば入れるほど、そいつは重みが増す。
こ、いつ!そんなこと、授業で習ってるじゃんか!
再びしえみの表情が苦しくなってきて、なんとも言い表せないような怒りが込み上げてきた。
しまいは奥村くんは炎を使い、当然止めに入った勝呂くんに驚いて手元を狂わせ、炎を座席へ移らせてしまった。
座席は燃えてしまったけど囀石はしえみから離れた。
私はすぐにしえみにかけよって安否を確認する。
私は大丈夫。ありがとうちとこ。
そう言われて、安堵からか、涙が出そうになった。

「座席に火が燃え移った…!!」
「あかん。もう祓魔師呼ぼう!!」
「待って!大ごとにしないで…!燐は暴れてないよ…この炎は……」

確かにしえみは火傷なんてしてない。
それに、奥村くんだって怪我をさせようとしたつもりじゃない。
かもしれないけど…

「…この炎って確か聖水で消してたわよね。『保食神よ成出給え』!」

出雲ちゃんはすぐに使い魔を出すと神酒で座席の炎を消した。
火は、消えたかもしれないけど、座席はケシズミ。黒い煙があがる。
それに、囀石もどこにいったのかわかなくなってしまった。
やっぱり、先生か祓魔師の人を呼んだ方がよかったかもしれない。

「何邪魔してんだよ!俺はうまくやれた!!」
「坊!!」
「…何がうまくや……!」

そしてまた喧嘩がはじまる。
ああ、もういい加減にしてってば。
今度こそ先生を呼ぼうと、私はしえみを立たせるとそのまま一人、先生たちがいる車両へと向かった。
起こしたら殺されかねないような顔をしていたけど、霧隠先生、さすがにこの騒ぎで起きてるよな。
みんないい人、なんだけど、ね。